Go to NoobowSystems Lab. Home

Go to Kits, Gadgets and Projects page

Lafayette 80-in-1
Electronic Project Kit

Export Version of Gakken "Mykit 80"
80-in-i overview

30年前の記憶

    家に帰るまで待ちきれず、朝に郵便局で引き取ったこのキットの箱を会社の駐車場で開けたとき、 もう30年もの間アクセスさせることのなかった記憶が強烈なフラッシュバックとなって蘇ってきました。 心の片隅で埃をかぶっていたバックアップ テープが引っ張り出されて、主記憶にロードされていきます。 ブルーのシャーシ、木製のトレイ、透明なカバー、それぞれの部品とその配置、ガルバノメータにカーボン マイク、そしてマニュアル。 英語で書かれていることを除けば、レイアウトもイラストもまったく当時のままです。 さらにこのキットと過ごした日々が色鮮やかに思い出されたのです。 建て替えられる前の古い家。 なかなか動作しないいらつき、良好なアースを得ようとしてバラの垣根の湿った地面に5寸釘を刺した肌寒い曇り空の早朝。 初めてイヤホンから聞こえてきたラジオ。それを自分のことのように喜んでくれた父親。 陽射しの暖かいガラス戸の縁側で大きな音で鳴る2石ラジオを一緒に聴いていた祖母。 外れてしまった006Pの電池ホックの線を半田付けしてくれた町の電子機器工場のおばちゃん。 分解して部品を転用したさまざまなプロジェクト。電流を流しすぎて煙を出し、へにゃへにゃに溶けてしまったガルバノメータ。 慣れない半田こてでのやけどのひりひりした痛み。記憶の再ロードは昼休みの終わりを知らせるチャイムで中断されるまで続きました。

学研マイキット

    このページを読んでいる人でこれを知らない人はいないだろうし、 少なくともエレクトロニクスエンジニアと称している日本人で、学研マイキットを知らない人間は絶対にモグリだと強く信じています。 が、不幸なことに知らないままに来てしまった人のために簡単に説明しましょう。
    学研マイキットは、主として小・中学生向けのエレクトロニクス学習教材です。 プラスチック製のボードの上にトランジスタや抵抗、コンデンサといった電子部品が取り付けられていて、その端子にはスプリングがついています。 これらのスプリングを付属のビニール線でつないで電子回路として組み立てます。 この方式により、半田こてなどの工具を一切使用することなく、ラジオやアンプ、発振器、アラーム装置などさまざまな回路に組み立てて実験することができます。 このキットにはテキストブックとしても優れたマニュアルが付属しており、回路図、回路の動作原理、接続順序や改良のヒントなどが紹介されています。 ここにある Lafayette 80-in-1 Electronic Project Kit 、日本名 学研マイキット80 の場合、80種類の回路の実験ができます。

    学研マイキットには、搭載されている部品の数と回路例の数によりマイキット80やマイキット100などがありました。 マイキット80は手ごろな価格のモデルであったと記憶しています。 当時、友人が持っていたマイキットの上位モデルはスーツケース型のケースで、きちんとした電流計やICによるアンプなどがあり、うらやましがったものです。

All items of 80-in-1
缶ビールはサイズ比較用です、念のため。
    同様なキットに学研電子ブロックがあります。 ビニール線でつなぐ代わりに部品が入ったブロックを組み合わせて完成させていく電子ブロックは組み立ても容易で、 人気もありました。が、配線の自由度が限られるためにオリジナル回路を作ったりいろいろ実験したりするのには不向きで、 学習教材としてよりオモチャの感が強くなってしまっています。 こちらは近年復刻版が販売されたので楽しまれている方も多いと思います。

Lafayette 80-in-1

    すでに書いたようにLafayette 80-in-1 は学研マイキット80の輸出仕様です。 Lafayette社は当時全米に数多くの販売店をもち、カタログ販売にも強いエレクトロニクスショップ チェーンでした。 1960年代は主として日本製のラジオ、オーディオ、アマチュア無線やCB機器などがLafayetteブランドで販売されていました。 アメリカに輸出したいが販売チャネルのない多くの日本メーカーは、Lafayette社のOEMという方法で海外進出を果たしました。 ケンウッド社もそうした会社の一つ。

    1960年代の終わり、ついに人類は月着陸の夢を果たしました。 宇宙に心ときめかせる子供にとってエレクトロニクスは時代の先端技術であり、 だから人工衛星が描かれたパッケージは本当に魅力的であったに違いありません。 このキットで学び、やがて大人になって本当に人工衛星を設計するようになった人もいるはずです。

使用コンポーネント

    左上にはコンデンサが6つ。 100pF / 0.001μF / 0.01μF / 0.2μFのセラミックと、3μFおよび100μFの電解コンデンサ。

    いちばん左側の黒い平坦なものは太陽電池。 その隣はフェライトバーアンテナで、入手時はご覧の通りコアが外れていました。 これはすぐに修復できました。

    バーアンテナの隣に1N60ゲルマニウムダイオード、その右に高周波用PNPトランジスタ、2SA52。 高周波系の部品は左寄りに配置されていて、とくにラジオを作る場合に回路図に近い実体配線が可能になるよう工夫されています。

    中央上部はSFチックな作りのガルバノメータ。 赤いプラスチック製のカバーの中には豆電球が入っています。 カバーの上には方位磁針があり、それを取り囲む形で配置されている青プラスチック枠に巻かれたコイルに電流を流すと方位磁針の針が振れます。 メータの性能としては芳しくありませんが、電磁気学の基礎を学ぶという点では一般的なメータよりも価値があります。
Click here for larger image

    右上は抵抗器が100Ω/ 1kΩ/ 5kΩ/ 10kΩ/ 50kΩ/ 250kΩの6本。 抵抗器の下は山水ST-32相当の低周波出力トランス。 その下に006P 9V電池と 単3電池2本のホルダ。

    写真で006P電池スナップに隠れそうに見えているのが低周波用PNPトランジスタ、2SB56。

    ガルバノメータの下には1回路2接点のメカニカルリレーがあります。

    単3電池ホルダは液漏れのため痛んでいます。
Click here for larger image

    配線が済んだら上半分には透明カバーをかけ、その手前のコントロール部でオペレーションします。 この操作コンソールはかっこいいね!

    左側の赤いターミナルはアンテナ、アース、およびカーボンマイクをつなぐためのもの。 実際には配線部のスプリングと直結しているだけなので、どのような用途にも使えます。

    白いつまみはラジオ用の単バリコン。 黒い矢型つまみは50kΩのポテンショメータ。


    操作コンソール右側には、モールス符号が示されたラベル、簡単な作りの電鍵、そしてスピーカおよびイヤホン接続用ターミナル。

    付属品はダイナミック スピーカ、クリスタル イヤフォン、カーボン マイクロフォン、配線用とアンテナ用のビニール線。


2石ラジオを作る

    それでは、私の大のお気に入り、マイキット80のラジオ回路の中で最も複雑で高性能な2石ラジオに30年ぶりにチャレンジしましょう。
    8歳の子供にゲルマラジオより複雑な回路の動作が理解できるはずがなく、最初にチャレンジした当時はひたすら配線順序の指示どおりに線をつなぐだけでした。 今では多少なりとも賢くなったので、配線順序ではなく回路図を見ながら配線していきます。
    回路構成はダイオード検波、低周波2段増幅でスピーカを駆動します。 マイキット80には低周波出力トランス(山水ST-32相当)はあるものの、段間結合トランスはありません。 このため初段低周波増幅と電力増幅の間はキャパシタ カップリングです。 それぞれの抵抗値が各1本しかない抵抗器で実現するため、バイアス回路も簡便なものになっています。


    配線が完了したら、さあ、電池をつないでテストしてみましょう。 006P 9V電池の在庫を切らしていたので、ニッカド電池8本で代用します。 わがラボではベランダに出ない限りどんなラジオを使っても室内での受信は不可能。 そこで、数日前から動作させっぱなし・音楽かけっぱなしにしているRamsey AM-1 AMトランスミッタの信号を受信しましょう。 アンテナ端子に長いビニール線をつなぎ、床に伸ばします。

    当時と同じく、一発では動作しませんでした。 せっかちな私はたいてい、1本やそこら配線し忘れるのです。 再チェックして、ああ、これを忘れてた。 で、まだ動作せず。 これも当時といっしょで、スプリングにビニール線を挟み込む時の接触不良が結構あるのです。 クロームめっきでもされていればいいのですが、スプリングは表面が酸化して接触不良に悩まされることになります。 このキットは30年前のものですが、スプリングは案外良好な状態を保っています。今後 しまうときは全体をビニール袋に入れ、シリカゲルでも放り込んでおきましょう。 あちこちつついて、やったあ、音が出てきました。

    2石といっても本機で作れるのはこのような簡便なもの。 同じ2石でもレフレックス構成にして倍電圧検波を使い、段間トランスを使えば感度が見違えるほど良くなる、 と当時本で読んで、 ホーマーのキット を買うためにお小遣いを貯め始め、町の電気屋さんで買った半田こてを使う練習に励みだしました。

Click here to hear the sound (105KB)

調子よく鳴っている2石ラジオ。
写真をクリックすると音が聞こえます。 (MPG 105KB)
ランプ点滅回路を作る

    せっかくいい音で鳴るようになったラジオをバラし、今度はランプ点滅回路を作りましょう。これも当時のお気に入り。 いいオヤジになった今でもピカピカ光るランプは大好きです。

    回路はトランジスタ1石とリレーを使用。抵抗を通じてコンデンサをチャージし、ある程度チャージが進むとトランジスタがONしてリレーが入ります。 リレーのNO接点がつながると、コンデンサの両端が抵抗でショートされ、わずかな時間の後にトランジスタがOFFします。 これが繰り返されるというしくみ。この動作原理の理解は、水飲み鳥の動作原理と同様、子供には難解なものでした。 トランジスタとリレーの駆動には9V電池を、またリレーのNC接点には3V電池で点灯するランプを入れておきます。

    実際に作ってみるとデューティ比が今ひとつだったので、抵抗を適当に入れ替えて カラータイマーのようにうまく点滅 するようになりました。 9V電池でリレーを駆動すると当然電池の消耗は激しく、当時はその頃のお小遣いからすれば安くない電池を心配して長時間は眺められませんでした。 だからこの回路の次のチャレンジは、AC100VからDC9Vを作る電源装置でした。 電源トランスと整流ダイオードそれに平滑コンデンサが入っていそうなポンコツテレビやラジオがないかゴミ置き場をチェックし、 母親には夕月かまぼこが食べたいとお願いするわけです。

もう一回勉強しなおそう

    エレクトロニクスの魅力は、なんと言っても組み合わせの妙。 たかがトランジスタ2個と一握りの部品。 それらを組み合わせることによって、80ものさまざまな回路が作れるのです。 楽しみながらエレクトロニクスの基礎を学べるこのキットで、もう一度勉強しなおすことにします。 なにしろ当時はただ線をつないでいただけでしたから。 でもこんな楽しいものを知らないなんて、今の子供はかわいそうだなあ!! で、この手のキットはもうどこにもないのかと思ったら、実は現在でも健在。 ちょっとさがしてみてください。あるところにはあるんですよ、 500回路もできるモデル が!! それも案外安いし。 日本語マニュアルつきもあります。 ああ、欲しくなってきたぞ。

How the wiring is made

祝 復刻!!!

    学研マイキットが復刻されました!! それも当時高くて買ってもらえなかったスーツケース型の、ICとメータがついたマイキット150です!!!!

    キットは発注後わずか2日で届きました。 部品点数もぐっと増え、いくつかのコンポーネントをモダナイズされたこのキットならさらに高度な実験ができるはず。 さあて、なにかマニュアルにないモノを作ってみたいなあ・・・ 60年代のレトロな雰囲気の残るマニュアルを眺めていて、 私にとって最も重要な装置が掲載されていないことに気がつきました。

短波ラジオがない!!

    同調コイルは手作りする必要がありそうですが、 再生検波+ICアンプの構成をとれば、そこそこの選択度をもち、 スピーカで海外放送を聞けるだけのゲインは稼げそうです。 配線が長くなりがちなマイキットではストレー容量の問題から安定な短波ラジオを作るのは結構チャレンジかもしれません。 でも一番の問題は、ラボの主任研究員に邪魔されずに開発できる時間が取れるかどうか。 さあ、これは夏休みの宿題だな。

    実際の夏休み2日目はあまりの暑さに外に出る元気もなく、 エアコンの効いたばあちゃんの家でポゴがお昼寝しているわずかなスキに、マイキット150で勉強。 富岡のラボと異なり木造の家なので、送信所からは100km離れていますが、 鴨居に這わせたワイヤーアンテナだけでダイオードラジオが動作しました。 ついでトランジスタ検波、ダイオード検波+低周波1石、1石レフレックス+倍電圧検波、 ダイオード検波+低周波2石と、感度や選択度の違いを楽しみました。 しかしマイキット80の当時と同様、NHK東京第1東京第2以外は聞こえません。 短波ラジオを目指す前にまず、TBSラジオを受信することを目標にすべきです。

    マイキット150はマイキット80に比べても筐体が大きく、 また部品のレイアウトが必ずしもラジオ回路に最適になっていないので、 配線長がどうしても長くなってしまいます。 自己流で配線したダイオード検波+低周波2石では、 低周波アンプのモーターポーティングが止まりませんでした。 マニュアルの結線順序に従って最初から配線しなおすと、安定して動作します。 これはトランジスタのエミッタからコモングラウンドに戻る配線の取り回しが特にキモでした。 全体の配線長は長くなってしまうものの、バッテリー近くに一点アースすると安定します。 中波ラジオでもこの調子ですから、短波ラジオはさらに難しそう・・・。

   
Mykit 150


オーディオ レベルメータ

    マイキット80ではほぼ実用性がなかったのが、オーディオ レベルメータ。 マイキット80のガルバノメータは方位磁針の周りにコイルを配置したもので、 メータのゼロ点あわせはつまりマイキット本体を南北に向けること。 この面倒を甘んじたとして、メータの感度は悪く、応答速度は遅く、 なにしろダンピングがほとんど効いていないので動きのある電圧を測定するのはほぼ不可能でした。 マイキット150にはメータがなんと2つもあるので、これを使ってオーディオ レベルメータを作ってみます。
    オーディオ レベルメータが出てくるのは、

  • No.070 IC式高感度音量計
  • No.092 VUメーターつきアンプ

  • の2つ。 いずれも入力信号をICオーディオアンプ モジュールで増幅し、 その出力をダイオードで半波整流してメータを振らせます。

        これらを参考にして作ってみたのが右の回路。 ライン レベルの入力に対してだいたいフルスケールが得られます。
        オリジナルのNo.070回路では、 パワーアンプ出力電圧がシリコンダイオードの電位障壁0.6〜0.7Vを超えないと応答しはじめません。 このため、小さい音量のときはメータはあまり振れず、ある程度の音になると急に振れ出す感じになり、実用性はいまひとつ。 これを解消するために、電位障壁の低いショットキー・ダイオードを使いました。 もしシリコンダイオードしかないなら、 ダイオードのアノード側を15kΩ〜20kΩ程度で吊って0.4V程度のバイアスをかけても概ね同じ動きになります。 メーターに並列に入っている470Ωは信号がなくなったときの戻りをすばやくするつもりでしたが、 マイキットのメータであればこの470Ωがなくてもさほど違いはありません。

    つづく・・・

    Return to Kits, Gadgets and Projects
    Return to NoobowSystems Lab. Home

    Copyright(C) NoobowSystems Lab. Tomioka, Japan 2001, 2004, 2005, 2006, 2008, 2009

    http://www.noobowsystems.org/

    No material in this page is allowed to reuse without written permission. NoobowSystems has no business relationships with the companies mentioned in this article.

    Oct. 20, 2001 Created.
    Aug. 15, 2003 Reformatted.
    Jun. 07, 2004 Reformatted.
    Feb. 20, 2005 Reformatted.
    Aug. 02, 2005 Added MyKit 150 (Revival Edition).
    Aug. 09, 2005 Updated.
    Mar. 05, 2006 Added a link to EL500.
    Apr. 01, 2006 Added audio level meter by MyKit 150.
    Nov. 08, 2008 Added a link to 2SP-211.
    Jul. 27, 2009 Applied 10pt as text font size.