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Yaesu FT-620B

50MHz SSB Transceiver
(1975)

Serial # 3040316


すれ違い

    こんな素人サイトを細かく読まれる方はそういらっしゃらないでしょうけれど、 ひょっとすると「ここにはなぜ八重洲が出てこないんだろう」と思われた方もおられるかもしれません。 そう・・・どうしたわけか、私は今まで八重洲の製品に縁がなかったのです。 いえいえ、決して嫌いなわけじゃあありません。 ただ奇妙にすれ違い続けていたのです。 開局当時、そして第3次開局の現在も、6m SSBがいちばん好きですので、 いままでFT-620/620Bを知らないままでいたのは不思議としか言いようがありません。

    私はいまだに15歳・16歳のころの憧れを引きずって生きています。 もしあの頃FT-620Bを知り、そして選んでいたなら、 今頃はきっとラボに何台ものヤエスが並んでいたのでしょう。 ありえた過去とありえた現在を覗き見るため、 FT-620Bを楽しんでみることにしました。

    ・・・というのは7割方ウソです。 2007年のハムフェア、 ママが「一日休ませてくれ、その代わり何を買っても文句は言わん」とおっしゃるので、 よっしゃああっっまかせとけっとばかりにばあちゃんとポゴを連れてビッグサイトに行ったのでした。 でも当然のことながら5歳児にはハムフェアもオンサイトオフ会も退屈すぎて、 ポゴは「はやく毛利さんちいく〜!!」とワメき出し、 これでは昨年同様戦果なしの手ぶら帰りになってしまう!! なので、ちらりと目に入ったFT-620Bに、ロクに品定めをすることもなく 「これください!」 とゲットしたのでした。

2007-08-25 FT-620B入手





動作確認済み

    ハムフェアで並んでいたFT-620Bは送受信とも動作確認済みのタグつき。 フロントパネルもノブも新品なのではないかと思えるほどきれい。 筐体のペイントはヤレが明らかだし、リアパネルの6価クロムメッキも荒れが進んでいますが、 顔がきれいというのはすごく幸せです。

    まずは受信動作を。 テストを開始してさほどたたず、どこかの局とショートQSOをした前橋の局が聞こえてきました。 動作はしています。 しかしEスポシーズンも去りつつあり、ラグチューするローカル局もいないし、 さらにはベランダホイップだけときたら普段は何も聞こえてきませんから、 HFダウンバータを使って7MHzと3.5MHzを聞いてみます。

    強力な局ではS=9以上にメータが振れるのですが、信号が弱い状態でのメータの振れが悪く、 AGCの利きも今ひとつで、AF GAINに手を伸ばす必要があります。 強力な局の場合もフェーディングに応じた音量変動があり、 はて、これはこういったものなのか、 それともAGC動作に問題があるのか。 SSBとCWとでは応答時間が確かに違うので、正常なのかもしれません。

    本機にはオプションのAMフィルタが組み込まれています。 内蔵スピーカの音質は安っぽいですが、外部に小型ブックシェルフをつなげば、 7.355MHzのドイチェ・ヴェレがいい音で楽しめます。

2007-08-27 動作テスト





はやいもんだなあ

    しかし実際のところ2007年以降も育児と仕事と中央研究所設立となんだかんだ忙しく、 さらに2011年以降は平日は第3研究所暮らしとなり、ラジオ修理に使える時間は激減。 この点に関しては在宅勤務を余儀なくされた2020年3月のコロナ禍は願ってもなかったことでした。 放置せざるしかなかった数々の懸案プロジェクトにひとつひとつ取り組み、 26年間手を付けられなかった ハリクラフターズS-38C の修理も終えて、 つぎは本格的な性能が出る機械をいじろう。 これはどうかな、入手時はおおむね正常動作していたから、あまり作業の必要はないかな。 そう考えながらワークベンチにFT-620Bを乗せました。 15年の待機。 はやいもんだなあ。

2022-05-19 整備作業開始






課題あり

    つまみを回してポテンショメータとロータリースイッチの軽度な接触不良が治ったら、 FT-620Bは快調に受信動作をはじめました。 東京ハイパワーHX-640トランスバータにつないだFT-620BはFT8もすぐに受信しはじめました。 復調周波数は十分に安定しています。

    ですが、動作しはじめて1時間と経たないうちに、 ハム音が大きくなってきました。 やっぱりね、 これは十分に予期できた問題。 電源回路の電解キャパシタは全数交換しておこう。 課題あり。 しばらく楽しめそうですね。

2022-05-19 ハム音発生






電源回路ではない

    FT-620BはAC100Vで動作する電源回路を内蔵しています。 電源トランスで降圧したAC電源はブリッジダイオードで整流され、 電解キャパシタで平滑、 チョークコイルを通った後にシリーズドロップ型電圧安定化回路で13.5Vが生成され、 各部に給電されます。 13.5V電源からさらに9Vを生成する電圧安定化回路があり、 安定な電圧を必要とする回路にはこちらの9V電源が供給されます。 13.5Vレギュレータと9Vレギュレータは回路構成的にはほぼ同じ。 9V電源は、シリーズレギュレータを2段通していることなります。

    キャビネットを開けサービスポジションにし、 電源回路ユニット基板を取り外しました。 基板の半田面を見ると、あれ? 修理された跡があります。 プリント基板上のパターンは削り取られ、 代わりに太目のビニール電線でつなげられています。 どうやら電源トランス2次巻き線とブリッジダイオードを結ぶパターンが過電流で焼損したと見えますね。





    匡体内背面に単独で取り付けられている平滑キャパシタと、 安定化電源回路基板上の平滑キャパシタ3個を新品交換しました。 ところが・・・ ハム音は消えません。 ええっ、ハムの原因は電源回路じゃないのか。

    さらにいじってみると、スケルチを閉じると受信音はもちろんハム音もすっきりと消えることがわかりました。

    FT-620Bの低周波段は、シャシー下面で一番大きな基板、IFユニットの一部に配置されています。 AF GAINからシールド線でインラインコネクタを介し取り込まれた音声信号は、 まずトランジスタQ214 1石のプリアンプで増幅され、 その後オーディオパワーアンプICに入ります。 プリアンプとパワーアンプの間にあるトランジスタQ213はミュート回路であり、 スケルチが閉じたときと送信時にはこのトランジスタがオーディオ信号をシャントし、無音にします。

    スケルチが閉じられてパワーアンプ入力がゼロになると完全に無音になるのですから、 ハム音はパワーアンプから出ているのではありません。 いっぽうインラインコネクタの3ピンと4ピンをショートしてプリアンプ入力をゼロにすると、 受信音は完全に消えますが、ハム音ははっきりと同じ音量で残っています。 となるとプリアンプでハムが発生していることになります。

2022-05-20 電源回路平滑キャパシタ全数新品交換 ハム音消えず






IFユニットのケミコン全交換

    プリアンプ電源はDC13.5VをR257とR255で分圧して9Vを得てC248 47uFで平滑しています。 DC13.5Vラインには22mVp-pほどの100Hzリップルが重畳しています。 C248の容量抜けが起きていけばリップルを除去できず、 Q214のコレクタに、つまりプリアンプ出力にそのままハムが乗ることになるでしょう。

    IFボードを取り外して・・・む、ネジの締め付けトルクがとても弱い。 このボードは工場出荷後にプロでない人の手によっていちど取り外されていますね。 半田面を見ると、IF段のトランジスタが1つ交換されたと思われる手直し箇所があります。

    C248と、DC13.5V電源入口の平滑キャパシタを交換。 ついでですから、ほかのすべての電解キャパシタも新品交換しました。

    へへっ、これでばっちりさ。 IFユニットを組み戻して電源ON。 しかし・・・やっぱりハムが出る!

2022-05-22 IFユニット 電解キャパシタ全数新品交換 ハム音消えず






グラウンドが暴れているのだろうか

    どうやらIFボード上のオーディオプリアンプのグラウンドとAF GAINポテンショメータ近傍のシャシーとの間でわずかに電位差があるように見えます。 AF GAINポテンショメータのコモン端子は直近でシャシーに落とされていますが、 試しにこれを切り離したらハム音ははっきりと低減しました。 しかし完全というほどではなく、まだはっきり残っています。

    ラインオフ当初はこんなにもハムが出ていたということはなかったでしょうから、 なにかが変わっているわけですが・・・ なんだろう。 ボードの取り付けネジ部での接触不良? シャシー組み立て部での接触不良? コネクタの接触不良? うーん。

2022-05-22 ハム音の原因いまだ特定できず






ハムは消えてしまいました

    数日経過し、ハムは目立たなくなりました。 あれえ、いったい何だったんだろう。

    これはもう思い当たることと言ったら・・・ AF GAINポテンショメータのガリを回復するために注入したDeoxIt Fader Lubeの揮発前残渣がポテンショメータ内部でなにか変な導通を起こしていたのかなあ。 でもそれも理屈に合わないような気もしますし。 ともかくいまは実用上全く問題とならないレベルにハム音は軽減しました。 迷宮入り、か。

    入手当初のこのページを読むとSメータがどうとかAGCがどうとか観察事項が書かれていましたが、 東京ハイパワーHX-640トランスバータと組み合わせるといい感じでSSBもCWもFT8もFAXも受信できていて、 Sメータが振れない微弱な信号でも良好に復調できますし、 そこからS9オーバーの強力な信号が入ってきてもあわててボリュームに手を伸ばす必要もありません。 いまでも実用になる性能を示しています。

2022-05-27 ハム音は自然治癒






温度変化には弱いみたい

    一晩中28MHzのFT8をワッチさせていたFT-620Bは、 朝見てみると受信周波数が1kHzほど高まってしまっています。 短時間での不安定な周波数変動はほとんどないけれど、 温度変化には弱いみたいですね。

    一日休暇をいただいて いのぶ〜 のマフラーの耐熱ペイント処理をしていた本日、 朝には28.074MHzぴったりにセットしておいたのですが、 作業が終わった午後3時、やはり1kHzほどダイヤルがズレていました。 昨日ほどではないけれど今日も暑かったからね。

    夢と時空の部屋のエアコンを入れると、 FT8同調用に28.0775MHzに注入しているパイロット信号のスペクトログラムがぐんぐん動き出しました。 室温の低下とともに変化していくのだろうと思いきや、 ふたたび安定するまでに周波数は上がったり下がったり。 安定するまでに45分以上もかかり、 その間はFT8の復調はとてもできないほどの変化。

    これはキャビネットを開けてVFOのバリコンに外気空気流が当たる状態なので、 キャビネットを閉じれば時間的な変化はもっと穏やかになるでしょう。 けれど、24時間連続FT8ワッチの任務に就かせるためには室温変動はは±3℃程度以内に抑える必要がありそうですね。 あ、そうか、50.074MHz用と50.313MHz用の水晶特注してFIX CHモードで使えばいいんだね。

2022-05-30 エアコンONによる室温変化で1kHz以上の周波数変動が起きることを確認






作業終了

    ということは結局、このFT-620Bはとくにどこも壊れていなかったということになるなあ。 送信テストは行っていないので送信系に何かあるかもしれませんけれどね。 いまはここで作業終了とします。 スピーカのついたボトムカバー内側はけっこう汚れていたのでシンプルグリーンで洗ってすっきり。 傷と汚れが目立つキャビネットは今はそのままに。 いつか八重洲純正色に近いスプレーでも手に入ったら、吹いてきれいにしてあげようか。

2022-05-30 作業完了





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2007-08-25 Acquired the FT-620B.
2007-08-27 Page created.
2022-05-22 Updated. [Noobow9100F @ L1]
2022-05-25 Updated. [Noobow9200B @ L3]
2022-05-28 Updated. [Noobow9300A @ L1]
2022-05-30 Updated. [Noobow9100F @ L1]
2022-06-01 Updated. [Noobow9100F @ L1]