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ICOM IC-71

50MHz AM Transceiver
(1970)



50MHz AMの世界を見てみたかった

    電話級を取って開局しようとしたころは、 まずは6mSSBからでしょう的なアドバイスが一般的でしたし、 そう思っていました。 中学生が新聞配達で買える無線機のチョイスはトリオTR-1300か井上IC-502か。 6m電話はすっかりSSBに移行していましたから、 まだ販売は継続していたものの松下RJX-601は選択肢には入りませんでした。

    当時50MHz帯は「唯一AMが実用として運用され続けているバンド」と呼ばれていましたが、 初めての無線機として新品で買ったIC-502 はSSB機でしたから、 結局のところ当時6mAMでは一度も運用することがありませんでした。 手作り送信機の個性的な変調、 送信周波数と受信周波数をうまく合わせられずに実質スプリット運用、 Eスポが開けて同一周波数でコールする複数の局が生み出すビートの混沌。 人の話で聴くことしかなかった50MHz AMの世界、見てみたかったなあ。






IC-71

    井上電機製作所IC-71は1970年製の50MHz AMトランシーバ。 同社の実質的に初の50MHzマルチモード (AM/FM/CW) のデスクトップ機です。 コンパクトで端正なデザインの筐体、 今でこそ当然のフルトランシーブ - 受信している周波数でそのまま送信できる - 使い勝手の良さ、 スプリアスの少ない送信純度、高い周波数安定度。 6m AM時代を謳歌したモデル、なのでしょう。 IC-71は少数輸出されたようですが基本的には日本国内向けの製品で、 海外での残存数はかなり少ないようです。

    どうせ壊れているだろうからいじって楽しもう、 なんなら自作機のテストベッドとして・・・などと思ってどこかのハムフェストで買ったこの個体、 なんと信じられないことに大きな問題なく動作し始めました。 最初は受信音が異常発振 ― 高く大きな嫌な音でピーッと ― しましたが、 これはAF GAINのポテンショメータが接触不良で入力開放となって自己発振してしまうため。 つまみをくるくるしていたら接触不良は収まりました。

    IC-71は50MHzから54MHzのアマチュアバンドを1MHzずつの4バンドに分割してカバーします。 各バンドには受信用と送信用の水晶発振子が必要で、 50MHz帯と51MHz帯の水晶発振子は標準装備されていますが、 52MHz帯と53MHz帯はオプション。 この個体にはオプションの水晶発振子は装備されていません。

2022-05-18 テスト開始






外部BFOを試してみる

    しっかり動作してくれているのなら、相手がほとんどいなくなってしまったAMはだめでも、 CWトランシーバとしてならお楽しみ機として使えるんじゃないかな。 しかし残念、この個体にはBFOが装備されていませんでした。 IC-71ではBFOは、100kHzクリスタルキャリブレータと一体になったオプションユニットとして用意されていました。 それを装備しなかったということは、 このトランシーバの当時のユーザは電話級のニューカマーあるいはカジュアルユーザだったのでしょうか。

    でもまあ、それならBFOユニットを自作して楽しむという手もあるな。 オーナーズマニュアルの回路図にはキャリブレータ/BFOユニットの回路図は掲載されていませんが、 本体回路図を読むとどうやらBFO周波数は第2中間周波数の455kHzで、 その信号は検波段に直接注入されるようになっています。

    シグナルジェネレータで信号を作り、MT7ピン真空管用ソケットを用いたオプションソケットの4ピンにキャパシタを介して注入してみると、 SG出力振幅0.5Vp-pでいい感じにSSB/CWを復調できました。

    注入したBFO信号は入力信号と同じに扱われてAM検波回路でAGC電圧を発生させますから、 注入電圧が高いとAGCが効いて受信機の感度が下がってしまいます。 注入電圧が低いとキャリア不足となりSSB/CWをうまく復調できません。 0.5Vp-pあたりがベスト、といった感じです。

    本機の選択度はAM機ですからブロードで、±8kHz以上までスカートが広がっています。 このためBFO周波数を中間周波数のセンター値455kHzぴったりにすると逆サイドバンドの混信が厳しくなります。 逆サイドバンド混信を低減するため、 BFO周波数はセンターから3kHzずらして458kHzあるいは452kHzにするとよさそうです。

    IC-71の受信回路は第1局発に水晶発振回路を使ったいわゆるコリンズタイプのダブルスーパーヘテロダイン方式であり、 第1周波数変換はハイサイド・インジェクションになっています。 このため第2中間周波段では受信信号のサイドバンドは反転しています。 したがってUSBを受信しようとするならキャリアは逆に高い方の458kHzに、 LSBを受信しようとするならば低い方の452kHzに設定することになります。

2022-05-19 外部BFOをテスト





いつかBFOユニットを作ってあげよう

    458kHz 0.5Vp-pの正弦波を0.56uFのキャパシタを介してBFOピンに注入し、 トランスバータを併用して14MHzのFT8を聞いてみます。 あ、きちんと受信できていますね。

    スペクトログラムの復調周波数3500Hzに見えている直線は、14.0775MHzに注入した周波数合わせ用のパイロット信号。 きれいに一直線になっています。

    右図のバックグラウンドノイズのスペクトルをみれば明らかなように、 受信音は700Hzに明らかなピークをもっています。 そしてこのために受信音は、昔の黒電話のようなピーキーな音がします。 それゆえ、シグナルジェネレータを使ってBGMラジオとして使おうにも、リラックスできない音。 これは故障なのかな。

    IC-71のオーディオパワーアンプは、送信時にはAM変調器として動作します。 送信時にAM占有帯域を制限し、トークパワーを集中させるため、 意図してこのような周波数特性を持たされているのかもしれません。

    とりたてて修理を必要とする故障がなく正常に作動しており、 しかし50MHzのAM/FMという普段は何も聞こえないところ専用の機械ですし、 BGM用としてもあまり適していないとなると・・・ 本機はふたたびラックにもどして、 またいつか出番を待つことにしましょう。 そのうち専用BFOユニットをつくってあげようね。





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2022-05-22 Created. [Noobow9100F @ L1]
2022-11-13 Updated. [Noobow9300A @ L1]