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Toshiba RP-1600F
"TRY X 1600"

Shortwave Receiver
(1975)



トライエックス1600

    いきなりやってきたブームの中、飛ぶように売れているナショナル・クーガとソニー・スカイセンサーを見て、 上層部は一日も早い対抗機の市場投入を命令したのかもしれませんね。 けれどもそれまでの深夜放送リスナー向けトランジスタラジオを一足飛びに本格的な短波受信に使えるモデルに仕立てるのはさすがに開発期間が足らなかったのでしょう。 であれば既存のモデルに最小限の装備追加で短波向けをアピールするしかない。 そして高性能・高機能を売りにできないのであれば、 小学生のお年玉とお小遣いではなかなか手が届かない2万円超のモデルではなく、 多くの子供に手が届く低価格を目指そう。 東芝TRY-X 1600ではそんな標品企画戦略が立てられたのかもしれません。

    1975年デビューのTRY X 1600は1万5500円という低価格ながら内蔵キャリブレータと較正可能なバンドスプレッドダイヤルリングをもち、 国際放送バンドでの周波数読み取り精度を高めました。 先行のの大人気機種である クーガ115 スカイセンサー5800 も、 短波ダイヤルの周波数読み取り精度は100kHzといったところでしたから、 TRY-X 1600のダイヤル読み取り機構は明らかなアドバンテージでした。

    しかし短波帯は12MHzまでしかカバーしておらず、 外部アンテナ端子を持たず、 BFOも装備していないとあっては本格的に短波を楽しみたいと考えるユーザの注目を得ることはできませんでした。 当時すでに クーガNo.7 を使っていてステップアップを考えていた私にとっては、 TRY X 1600は一度も購入検討候補には上がりませんでした。 いっぽう実際の市場はシリアスな短波フリークよりはカジュアルな深夜放送リスナーのほうが多かったでしょうから、 低価格な1600はむしろそういったカジュアルユーザに歓迎されたのだろうと思います。

    1600のデビューと前後して スカイセンサー5900 が登場し、 短波ポータブルはダブルスーパーヘテロダインと10kHz直読の時代になりました。 1600が周波数読み取り精度を誇れた期間は無きに等しいものだったわけです。 1976年、短波帯フルカバーのBFOつき大型機TRY-X 2000が登場しましたが、 シングルスーパーヘテロダインと相変わらずのダイヤルリングではデビューする前から旧世代機でした。 魅力的な外観を持つTRY X 2000、もし3年早くデビューしていたら・・・と思いますが、 東芝という巨大な企業の家電部門には時代を先取る冒険を良しとするという文化はなかったのだろうな、 と思います。





    2000年、職場の仲間から彼が高校時代に使っていたというラジオをまとめて買い取った時、 TRY X 1600も含まれていました。 これはすごく汚れてて程度悪いので、オマケとして差し上げます。 いらないなら捨てますから・・・という彼に、 いやいやそれはさすがにもったいない、ありがたくもらうよ、 ということでこのラジオがラボにやってきました。

    とはいえ、憧れたモデルでもなく、 事実すごく汚れていて、スイッチは1つ折れているしロッドアンテナ先端も失われているし、 1600唯一の自慢の短波ダイヤルリングはアルミ母材が修復不能にサビていてみすぼらしいコンディション。 はてどうしたもんかいなと考え込んでしまいました。

2000-10-18 入手





    捨てる前に中くらい見ておこうかと思いケースを開けます。 押し入れの中ではなくて屋外の物置小屋に放置されていたのでしょうね、 雨水にさらされたことはないようですが、内部もみすぼらしく汚れています。

    このラジオは電源トランスを内蔵しています。 ポータブルラジオなんだから電源トランスは内蔵せずにACアダプタを使うようにすれば軽くなっていいのにな、 と思います。 ポータブル機は実際のところ屋外で使われることは少なく、 たいていは受験生の机の上にある、ということを理解した上での製品仕様なのでしょうか。 それともACアダプタよりはトランスを内蔵した方が低コストでできたのかもしれません。

    オーディオパワーアンプは入力トランスと出力トランスをもつ、 トランジスタ2石によるプッシュプル。 オーディオプリアンプにICが使われていますね。 フロントパネルには誇らしげにIC-FETのシルクが印刷されています。

    FMフロントエンド〜FM検波段は中央付近のシールドボックスに入ったFMモジュールとして作られています。

    ともかくも電源トランス周りには腐食等はなさそうなのをみてACコードをつなぎスイッチを入れてみると、 なんにも反応がありません。 ああ、電源トランスが逝っちゃているのか。 ならば乾電池のターミナルにみのむしクリップで直流電源を給電してみたら・・・ やはりウンともスンともいいません。 これはもう廃棄処分だなあ・・・。





    実装はセンターフレームにフロントパネルとリアパネルがつく形態。

    折れたレバーのスイッチはFM AFC / MW DX-LOCALスイッチです。 まあこのスイッチは頻繁には使わないからこれでもいいでしょう。 スイッチ自体が固着してしまい、動かそうとしたらレバーが折れたということのようです。

    トーンコントロールはキャパシタシャント式。 ボリュームポテンショメータとトーンコントロールポテンショメータが並んでいますが、 これ以上に簡略化はできません的な風情。




    ダイヤル減速メカニズムは糸掛け式。 途中に入ったプーリーからギア駆動でムービングフィルムシャフトを回します。 サブシャーシにすべての部品が取りつけられており、本体の組立性は良かったでしょう。

    しかしダイヤルコードの取り回しを見ると、 はたしてこれでいいのか? と思ってしまいます。 途中に2箇所、 アイドラプーリーもなしにコードがサブシャシーを擦って這いまわされているところがあります。 既存のコンポーネントででっち上げたのか、 初期設計で気づかなかった設計ミスを修正する時間がなかったためか。 前オーナーが一度分解して正しく組み戻せなかったのかもしれませんけれど。

    バリコンを回すホイールとバリコンシャフトは二面取りされたシャフトがホイールにはまり込むだけの簡単な造り。 締まりばめでさえなく、ここで明らかなシャフトのバックラッシュが発生しているはずです。

    この2つを見るだけで、この受信機に深夜放送ラジオ以上の何かを期待してはいけないことがわかります。





    ムービングフィルムダイヤルの目盛りは当時のポータブルラジオの平均的なものですね。 アマチュアバンドのバンド表示が入っていないのは、BFOを持たない本機ではある意味妥当なところでしょう。 そういえばスカイセンサー5900のメインダイヤルにもアマチュアバンドの表示はなく、 しかしクーガ2200にはしっかり入っているということにいま気がつきました。

    当時のラジオはこんなもの、 短波の目盛りからは100kHz台ですら読み取れません。 だから代わりに0-100のスケール目盛りを読んで、自分で較正表をつくって50kHz前後くらいまでは合わせていたものでした。 けれどTRY-X 1600、このスケール目盛りの振り方じゃそれもできません。 国際放送など自分では聴かないようなデザイナーやエンジニアたちの作品だったんだね。

    さらにこのダイヤル、ムービングフィルムとダイヤルグラスの間隔がありすぎて、 ダイヤルグラスに引かれたポインタラインとの視線誤差が大きいのです。 「短波重視」はなにも回路構成とか機能がどうのとかいう前にこういう部分の使い勝手の気配りが求められるのですが、 残念、東芝は分かっていなかった。

    フィルムダイヤルの裏側には透明プラスチックのライトガイドがあり、 メインダイヤルとチューニングインジケータは1個の麦球で照らされます。 明るさは推して知るべし、ですが。





    スピーカもホコリまみれ。 でもエッジが破れているといったことはなく、きちんと鳴ります。 フロントパネルに取り付けられているスピーカのメイン基板との結線はピンコネクタが使われていて、 工具なしで取り外せるのは親切。

   




    できる限りのコスト削減を狙ったことがわかるのがダイヤルライトスイッチ。 打ち抜きプレスのスイッチ板で、接点はごく普通のネジの頭。 接続は目玉ラグ。 こりゃチープだわ。 操作感など期待してはいけません。 しかしこういった工夫で、小学生のおこづかい貯金で手に入る製品を提供してくれていたのだ、 ということです。

    このラジオは深夜放送リスナーに必要だった大切な機能・・・ OFFタイマーを持っていません。 低コストを追求したのはわかるけれど、 実際のターゲットユーザは普通の深夜放送リスナーの受験生だったとしたら、 やりすぎだったのでは? 実はタイマーは外付けオプションとして設定されていて、 本機側面にはタイマー接続用ジャックがあります。

    ん? まてよ、タイマー接続ジャック? ここにつないだ外部スイッチで本機をON-OFFできる? もしや?

    タイマー接続ジャックにプラグを差し込んでいないときにジャックをショートさせるための可動片接点にセーフティウォッシュを吹きかけたら・・・ おおお! チューニングインジケータが反応した! ダイヤル操作に応じて針が動く! スピーカをつなぐと、1600は元気に鳴り出しました。






謎すぎる故障原因

    ポテンショメータのガリはありますがスプレー処理して回復した後はこのラジオはとても快調に鳴っています。 FMもAMも感度・選択度・安定度いずれも良好、音質良くて音量もたっぷり。 とてもいい感じです。 ですが、短波だけは全く無感。 バンドセレクタスライドスイッチの接点不良だろうと思いましたが、 スプレーを吹き込んでもわずかなノイズ以外一向に何も聞こえません。

    別のラジオで局発の漏れを受信してみると、 局発は正常に動作しています。 AM (MW) は正常に動作していて、局発も発振しているのに、 短波だけまったく無感とはどういうことなのだろう。 基板を眺めてみると、あれ、これは? コイルがひとつ、シルクの印刷はあるのに取りつけられていないところがあります。

    設計当初は用意されていたけれどコストダウンで試作段階で削除される回路というものはよくありますし、 あるいは上級機と共用のプリント基板を使っていて下級機では実装されていない (アンポビュレーテッドな) 部品というのも良く見かけます。 しかしそのコイル実装部は、よくよく見るとコイルの足5本のピンが基板にはんだ付けされていて、 ピンからは細いマグネットワイヤがごくわずかに伸びているのが見えます。 どうやらこれは・・・ コイルが無理やり引き抜かれた ものと見えます。

    基板のレイアウトとパターンを見てみると、このコイルの1次側はバリコンとつながっていて、 2次側は周波数変換トランジスタのベースに入っています。 このコイルは、短波用のRFコイルです。 これがなければ、短波だけ完全に無反応になるよね。 故障の原因判明。短波用RFコイルの欠損。

    しかしまあ、なんでだろう? 前オーナーが何か改造しようと試みたのでしょうか。 たとえば15MHz帯を聴きたいがためにコイルを改造しようとしたとか? でもそうであれば・・・ このコイルが短波帯で目的信号を選択する同調回路を形成していて、 このコイルを巻きかえれば同調周波数範囲を変えられると理解していたのなら・・・ コイルを取り外すためには半田こてを使う必要があることくらいは当然理解していたはずです。

    自分ではラジオを組み立てたこともないような、半田こてを使うことも知らない素人が雑誌か何かでTRY X 1600の受信周波数改造の記事を見かけ、 このコイルをいじればよいことを読み、 ペンチで引き抜けるのだろうと考えて・・・ とかでしょうか?

    それともオーナーでないだれかが、 たとえば短波ばかり聞いて勉強しない子供に業を煮やした親が、 短波だけ聞けないようにするために短波コイルを抜いた? そうであれば、親御さんはこのコイルが短波RFコイルであってAMやFMの機能には影響しないことを理解していたということになりますから、 それは別の意味ですごいことになります。

    このラジオを譲ってくれた彼にその後その理由を聞くこともないまま月日が経ち、 この故障原因の真の理由は謎のままになっています。

    いずれにせよなんだね、 短波が聴けないのならこのラジオは修理する価値もないねえ。





22年後の修理

    短波が聞けない、みすぼらしく汚れた短波国際派ラジオ。 FMもAMもしっかり鳴っているガラクタは捨てるに捨てられず、 しかし組み戻しもしないまま22年間・・・ ラボの中に溶け込んで存在し続けてきました。 メインシャシーはジャンク品ダンボールの中、 スピーカはスピーカ箱、ロッドアンテナは工具立てガラス瓶、 つまみはつまみ類パーツストック箱の中。 ハリクラフターズS-20Rスカイチャンピオン のスピーカ再取り付けの時に小物金属部品在庫のなかにちょうどいいスピーカ固定金具があったのでそれをひとつ使ったけれど、 あれはたぶん1600の金具だったんだろうなあ。

    20年前に書いたこのラジオの作業ノートページを読み返しながら、 やっぱり短波が聴けるところまでは戻してあげたいね。 代わりのコイルを作ってみようか。 でも私はいままで自分でコイルを巻いたことはなく・・・ そういう作業がとても下手なので・・・ できる自信はありませんけれど。

    ACケーブルを差し込んで20年ぶりに通電。 当時と同じく、FMとAMは元気に鳴りだしました。 電源の平滑キャパシタは正常で、ハム音は出ていません。

2022-07-21 作業開始






望みあり!

    RFコイル2次側、つまり周波数変換段入力にシグナルジェネレータでつくった短波の信号を入れると、 ちゃんと受信できていることがわかりました。 ジェネレータ出力1mVp-pで強力に受信できるので感度も良く、 選択度も適切です。 これはと思いここにロングワイヤアンテナを直結したら、 あちこちの短波放送がガンガン聞こえてきました。 え、このラジオ思ったよりも素性は良さそう。 AM-FMの2バンドだけではもったいないなあ。 やはり短波がちゃんと聴けるようにしてあげたいね。

2022-07-23 RFコイル2次側に信号注入で受信できていることを確認






局発周波数

    どうもこのラジオは短波ダイヤル位置と実際の受信周波数がひどくずれていることがわかりました。 む、局発周波数はどうなっているんだろう。

    このラジオは短波ダイヤルを最高位置にセットしたときは12MHzかそれのちょっと上を受信する設計なわけですから、 アッパーサイドインジェクションだとして局部発振周波数は12.455MHzより少し上、 どう高くても13.5MHz程度以下のはず。 ですがポケット短波ラジオを並べて局発の漏れを受信してみると、 15.365MHzで発振しています。 むう、2MHzも高い。

    いまだにサービスマニュアルは入手できていません・・・ ネットの有償コピーサービスで買うほどには真剣に修理する決心がついていないからなのですが・・・ が、基板を眺めてどうやらこれが局発コイルらしいとにらんだそのコアを回すと、 ピンポン、正解でした。 写真に見える、緑色コアのコイルです。 赤色コアはAM (MW) の局発コイル。 これを回して、 局部発振周波数がダイヤル表示+455kHzになるように調整しました。 コアはずいぶんぐるぐる回す必要があり、 いっぽうでMWの局発周波数はほとんど正しく調整されていましたから、 過去に短波用局発周波数設定が人為的に大きくいじられたとしか思えません。

    ともかくなんにせよ短波ダイヤルはおおむね正しい受信周波数を示すようになりました。

    ところでこのラジオは、ひどいオシレータプルインを示していることに気がつきました。 ラジオのダイヤル位置は変えずにシグナルジェネレータの発振周波数をすこしずつ動かしてゼロインに近づけていき、 どんぴしゃを超えてさらにわずかに周波数を動かすと、いきなり感度を失います。 もとの方向に周波数を戻していくと、10kHz以上戻して再び受信できるようになります。

    いくらTRY X 1600が低価格の入門機であるといってもそれはあきらかに異常な程度。 いったいどこが壊れているのだろう。 局部発振器の発振トランジスタが不良になって、 電極間容量がバリキャップのように顕著に変化するようになってしまった、とかかな? AGC電圧の変化に応じてベースバイアスが変化し、発振周波数が引きずられるという仮説です。 実際の調査作業は後回しにするとして、 発振トランジスタ交換とかが必要になるのでしょうか?

2022-08-25 短波局部発振周波数大幅ズレ 再調整






代わりのコイル

    失われたRFコイルの代わりに、とりあえずは何か代替のコイルをつないで試してみましょう。 同サイズの7MHz用FCZコイルがあったのでまずは2時巻線をリード線で仮接続し、 1次巻線に短波帯の周波数を入れてみると、 あれ、いい感度が出ています。 そのまま1次巻線もつないでみると、 内蔵ロッドアンテナだけで十分な感度が出ています。

    バリコンと1次巻線のマッチングはとれていないので選択能力はなく、 イメージ混信は盛大に出ています。 逆にそれゆえダイヤルは放送局だらけ。

    1次巻線を巻きなおしてちゃんと同調選択できるようにしようと最初は思っていたのですが、 面倒になって、もうこのままでいいや。 部品面にFCZコイルを取り付けました。

2022-08-25 FCZコイルで感度良く受信動作することを確認 - 同調機能はないがそのまま使用






チューニングインジケータ振り切れ問題

    本機のチューニングインジケータは、受信信号が強まると針が右に振れていくタイプ。 通信型受信機のSメータと同じ動きなので好感が持てます。 メータ回路動作としては信号強度が弱いほどメータ電圧が高まる仕組みであり、 メータそのものはゼロ位置が右にある逆ぶれタイプ。

    で、どうやら残存しているTRY X 1600の多くに発生しているとのことなのですが、 信号強度低いときにメータの針が降り切れてしまいます。 素子の経時劣化で起こる現象なのでしょうね。 回路図があれば原因を調べるのも楽しそうですが、 とりあえずメータに直列に抵抗を入れて安直に振り切れ防止してしまいましょう。 試すと10kΩを直列に入れたときにドンぴしゃフルスケールになりました。

2022-08-26 チューニングインジケータ振り切れ問題 回避措置






ぐらぐらのキャパシタ

    作業を続けていて、基板の上の部品の一つが抜けかかっている乳歯のようにぐらぐらになっていることに気がつきました。 見てみるとそれは1000uFの電解キャパシタで、 1本の足のはんだ付けが完全にすっぽ抜け、 もう1本も抜けかかっています。

    むりやりの力で抜かれたような形跡ではありません。 熱サイクルでのはんだの疲労破壊かな? でもそこは熱サイクルが発生するほどの発熱はないはず。 それでは機械的振動ではんだに金属疲労が起きたのかな? でも自転車の前カゴにこのラジオをむき出しで入れて砂利道を1時間2時間走った程度ではここまで疲労はしないだろうし。 基板をシャシーから取り外して手で取り扱うときはこのキャパシタは基板を保持するのにちょうどいい位置にありますから、 作業中に繰り返し指で加えた力のためにはんだ接合が破壊されたとかかな?

    原因は不明ですがとにかく新品のキャパシタに交換してはんだ付けしました。 交換する前もハムは出ていなかったし、なにも違いはなさそう・・・と思いましたが、 あれ? オシレータプルイン現象がすっかり直っている。 ラジオの高周波段・中間周波段の電源フィルタキャパシタだったとして、 これが外れたときにオシレータプルインが起きたりするものかなあ? 因果関係は分かりませんけれど、 プルインがなくなってスムースにチューニングが取れるようになったので結果オーライ。

2022-08-26 外れかけ電解キャパシタ1個新品交換






清掃と仮組み

    フロントパネルをシンプルグリーンで洗い、スーパーポリメイト塗布。 ちょっと脂ぎりすぎた感がありますね・・・ センターフレームは基板など内容物をすべて外してシンプルグリーンで洗いたかったのですが、 けっこう面倒で、結局ウエスと綿棒でちまちま清掃。 自慢のダイヤルリングの表面荒れはどうにもならず。

    ありものコイルを取り付けただけの修理ではイメージだらけ、 現状 短波バンドは腰を据えて短波を聞こうという気にはなりませんが、 強力な局を楽しむのなら十分。 感度はとても良好ですが、プラスチックボディゆえに環境ノイズを激しく拾ってしまいます。 内部回路のグラウンドが出ているのは側面のイヤホンジャック・タイマージャック部だけですので、 そこを使って周りの機器とアースをつなぐとノイズはかなり低減します。 ロッドアンテナに外部アンテナをつなぐとノイズの海となりチューニングインジケータが振り切れて、 むしろ具合悪し。 これは現状では短波同調回路がまともに働いていないために周波数変換段がオーバーロードしている可能性もあり、 1600の実力とみるべきではありませんね。 短波8MHzあたりでのコールドスタートからの周波数ドリフトは15kHz程度。 1時間ウォームアップすれば変化は5kHz以内ですからこのクラスとしては平均的、 国際放送を聞く分には許容範囲内といったところです。

    内蔵スピーカの音質はこのクラス・このサイズとして満足できるもの。 外部スピーカをつなぎ、ラウドネススイッチをONにすれば、 落ち着いたいい音でホームオフィスBGM機として楽しめます。 短波受信機としてではなく3バンドポータブルラジオとしてみれば、 TRY-X 1600、いいラジオです。






CAL発信装置搭載

    TRY X 1600の見開き広告。 「発振回路」を「発信装置」と書くあたり、いい感じです。かっこいいよ! あこがれちゃうよね!!

    でも残念ですね、小学5年生の私はすでに「発信」と「発振」の言葉の使い分けは身についていましたから、 この一言だけで製品が素人狙いであることは見え見えでした。

    フロントパネルのCALスイッチを上げると、受信機の感度が下がってキャリブレータが動作し、 メインダイヤルの1MHzおきにキャリブレータ信号の発信音が聞こえます。 メインダイヤルをキャリブレータが聞こえる位置にセットし、 ダイヤルつまみ位置をそのままにしてダイヤルリングだけを回して、 たとえば10MHzの位置にセットします。 CALスイッチをOFFにしてダイヤルを回せば、 リングの目盛で10〜20kHz程度の確度で周波数がわかる、という仕組み。

    TRY X 1600のキャリブレータは水晶発振ではなく、単なるLC発振です。 低コスト最優先の企画商品だったから、なのでしょうけれど、これはさすがに・・・ですね。 製造から50年近く経った今、キャリブレータの周波数は大きく狂っていました。

    ICF-5900やRF-2200で較正をするときはクリスタルキャリブレータがONするだけでなく、 BFOも同時にONになります。 キャリブレータの受信音のゼロビートを取ることによって、 キャリブレータの信号周波数に対して数10Hz程度の確度で合わせこむことができます。
    これに対して1600にはBFOがありません。 BFOなしにキャリブレータ信号が聞こえるようにするため、 キャリブレータ信号には音声周波数で変調が掛けられています。 しかしこれはキャリブレータへのゼロインをチューニングインジケータの針の指示か あるいは受信音の音の大きさで判断することになるので、 ゼロイン確度はやや落ちてしまいますね。





    仮にキャリブレータが水晶発振で、BFOを装備して正確にゼロビートを取れたとしても、 ダイヤルリングの目盛は11MHz帯ではずいぶん細かくなってしまっています。 サブダイヤルにはへアラインカーソルもないので、目盛の目視読み取り誤差だけでも20kHz近く出てしまいそう。

    さらに致命的なのがダイヤル機構で、 バックラッシュが大きくフリクションも大きいため、 サブダイヤル指示だけで目標の周波数に合わせるのはほとんど不可能なのです。 これらの「稚拙な造り」が総合された結果として、 「耳だけがたよりでしょうか? 短波受信。」の広告のキャッチフレーズの問いに対しては、 「他に何を頼れと?」と答えることになってしまいます。

    メインダイヤルに精密なロギングスケールが刻まれていて視線誤差の少ないへアラインカーソルがあり、 ダイヤルがスムースでバックラッシュが少ない「良く造られた」ラジオなら、 較正グラフを描く手間はありますが、1600以上の確度で周波数合わせができたでしょう。






キャリブレータ調整

    短波のRF同調が機能していない現状、ロワーサイドインジェクションにしたほうがほんの少しイメージ混信が減るみたいです。 なので局発周波数が目標周波数の455kHz下になるように再調整しようとしましたが・・・ 局発コイルの調整範囲いっぱいで250kHz下まで落とすのがやっと。 メインダイヤルの精度は200kHzほどずれてしまっています。 これが気にくわないならアッパーサイドインジェクションに戻すように > 自分。

    周波数が大きくずれていたキャリブレータを再調整します。 シグナルジェネレータで10.000MHzを発振してそれが受信できるようにダイヤルを合わせ、 キャリブレータ信号が聞こえるように発振コイルのコアを回します。 イメージ排除能力ゼロの現状では、 メインダイヤルで10MHzが聞こえる位置のすぐ下で9MHzのキャリブレータ信号のイメージがほとんど同じ信号強度で聞こえてしまいます (ダイヤル位置9.910MHzのとき局発周波数が9.455MHzとなり、9.000MHzの信号との差が455kHzとなって聞こえてしまう)。 キャリブレータを使うときは、ダイヤル上で周波数の高いほうで聞こえる信号に合わせなくてはなりません (アッパーサイドインジェクションに調整したときは関係が逆になります)。

    LC発振のキャリブレータ発振回路は出力バッファも省略されていると見えて、 ロッドアンテナにつないだアンテナ負荷やアンテナから入っている信号の強度などでも発振周波数がふらついてしまうみたいですね。 マーカーに合わせればどんぴしゃ、という感覚ではありません。

    調整が済んだ後に試してみると、 マーカーにゼロインした状態ですでに周波数ズレが10kHzほど。 やり直すのも面倒だなあ。 10MHzのマーカーに合わせてダイヤルリングを10MHz位置にセットし、 9.500MHzのテスト信号を受信しようとすると、ダイヤルリングが9.420MHzあたりで聞こえます。 そこからダイヤルを反対方向に回すと、信号は9.570MHzあたりまで聞こえ続けていて・・・ 要するにダイヤルのバックラッシュが±70kHzくらいはありそう。 新品の時はもっとずっと良かったのでしょうけれど、 うーん、残念な具合。

    そう、そういえば局発のオシレータプルイン現象、 やはりときたま発生します。 どういう条件だろう、 なにかテストのために計測器とかをつないでいるときに回り込みみたいなことが起きていたりするからなのかな?

2022-09-03 ロワーサイド・インジェクションに再調整 キャリブレータ周波数調整






FT8を聴く

    1975年ころのラジオ雑誌には、BFOを持たないラジオでCWやSSBを受信するための外部BFOアダプタの製作記事が載っていましたね。 トランジスタ1石で455kHzを発振させ、出力をビニール線でラジオのロッドアンテナに注入する、というもの。 小学生のころ自分でも作ってみましたが、全くうまくいきませんでした。 まあそんな簡単なものでどうにかSSBが聞けるようになるなら、 ブームだった当時に市販品として売り出されて人気が出ても不思議はなかったはず。 そうならなかったところを見ると、 そんな方法ではダメだ、というところだったのでしょう。

    455kHzのBFO信号をアンテナから注入する方法はダメでも、 キャリア周波数信号をアンテナから注入する方法ではどうでしょうかね。 夕方の40メーターバンドのFT8をしっかり受信できている1600のロッドアンテナに、 シグナルジェネレータでつくった7.074.0MHzの信号をツイストワイヤカップリングで注入してみました。 すると、あれ、けっこう復調できるじゃん。





    長いワイヤーアンテナでは1600が飽和してしまうのでロッドアンテナと同じ程度の短い室内ワイヤアンテナ、 復調音質が一番よくなるようにキャリア注入電力をいろいろ試してみると、 WSJT-Xが1回のシーケンスで10局以上デコードできるほどに具合良し。 1メートルもないワイヤーアンテナですが、 日本各地はもとより東南アジア諸国から北米までもが聞こえています。

    古い受信機でFT8を受信するときは局発ならびにBFOの周波数安定性不足が問題となってきますが、 正確なキャリア周波数をアンテナから注入する方法なら受信機にとってはAMを受信することと同じになりますから、 復調周波数のドリフトの問題が出ません。

2022-09-03 FT8受信トライ






パリパリノイズ発生

    作業中のBGM機として快調に鳴っていた1600ですが、 なんだかFMの受信音がノイジーになってきました。 TW-172Dトランスミッタ の問題かな? と思ったのですがそうではなく、 1600のボリュームを目いっぱい絞ってもカサカサパリパリとノイズが出続けています。 あー、これはオーディオアンプの電解キャパシタ劣化だね。

    ケースを開けて、真っ先に目についたトーンコントロールのシャントキャパシタを新品に交換。 お、いきなりのビンゴ? ノイズは全く出なくなりました。 でもケースを開けたついでですから、 メイン基板をシャシーから取り外さずに簡単に交換できる電解キャパシタはひととおり新品に交換しておきました。 心なしか音が良くなった気がします。 特に低音の豊かさが増したかな。

    キャパシタ交換作業中に、 チューニングメータが振れなくなりました。 正確に言うと、電源を入れるとメータ指針は左側のフルスケール近くまで振れるのですが、 ラジオの信号強度に反応しなくなっています。 あたこちつついて、これはチューニングメータのゲイン調整の半固定トリマの接触不良であることがわかりました。 FaderLubeを吹いて、トリマをくるくる回し、メータゲイン調整を取り直して復活。

    これが直ったら今度はチューニングダイヤル回しても受信周波数が変わらず。 フィルムダイヤルサブシャシー上のチューニングホイールがバリコンシャフトから外れてしまったため。 ダイヤルメカの組み外し組み戻しで復旧。

2022-09-12 パリパリノイズ発生
2022-09-12 電解キャパシタ複数個所新品 ノイズ消滅 チューニングメータトリマ再調整






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