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Sony TC-K333ESG

Stereo Cassette Deck
(1989)

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いつどこで手に入れたのかも思い出せずに

    ソニー TC-K333ES-G。 1989年製の3ヘッドカセットデッキです。 型番の"3"が示す通りメインストリームラインアップで、上位機種に555ESGがありました。 いまこうしてこのデッキがここにあるわけですが、はたしていつどのようにこれを手に入れたのだろう。

    新品で買ったものではありません。 それは間違いなし。 1989年は自分の社会人生活が安定して、 生まれて初めてのコンポーネントステレオを新品で買ったころです。 コンポーネントステレオといってもソニー リバティV725。 アンプやグライコやカセットデッキは別体シャーシになっているものの、 セットで使われるのを前提とした、 分離式モジュラーステレオ (変な言い方ですね) でした。

    それが当時自分にできる贅沢だったので、 そのころの単品コンポであるTC-K333ESGはきっと電機店の店頭で見かけたことはあったのでしょうけれど、 手の届かない夢として意識から遠ざけていたのだと思います。

    2001年のラボの写真にこのデッキが写っているし、 2011年に書いた YAMAHA MT4Xのページ には 「第3研究所にはずいぶん前に中古で買ったSONY TC-K333ESGを持ち込んでいて」 と書いているのですが、 いまとなってはどこでいくらで買ったのかも、 あるいは本当に自分で買ったのかも覚えていません。 知り合いが譲ってくれたのではなかったっけ? 当時手の届かない夢のようなモデル (販売価格7万9800円) だったこのデッキを中古であっても買えたのならば、 さぞかし嬉しかったはずなのに。 もし1999年04月〜2000年に中古で買ったのだったならば、それはシリコンバレーから帰国したあとで、 全身全霊を投じた夢が破れた喪失感から抜け出せておらず、 喜びの記憶が残らなかったのかもしれません。

    2011年01月に開設した第3研究所で暮らし始めた直後は、夜は特に何もすることのない寝るだけのような生活でした。 それでもカセットデッキとしてK333ESGを持ち込んで、カセットテープライブラリのデジタイズ作業を進めていました。

    そんな2011年08月02日、K333ESGが完全に故障。 再生スイッチを押してもヘッドアセンブリが動きません。 動きか渋くなってしまったのか、それともベルトか。 デジタイズ作業用のカセットプレイヤーの任務は YAMAHA MT4X に譲り、 K333ESGは第3研究所の隅で9年間放置されていました。

2011-08-02 TC-K333ESG 故障 ヘッドアセンブリ動かず




    2011年の新型コロナ騒ぎ、基本的に在宅勤務の指示が出たので、 中央研究所の資材保管室をオフィス化する作業を始めるとともに、 往復のたびに第3研究所の機材類を毎回100リットルバッグに積み込んで中央研究所に引き揚げ作業。 秋口には不動のままだったK333ESGも ティル のリアシートに乗って中央研究所に戻ってきました。

    それから約半年経過。 ナショナル5球スーパー の整備を終えて、次は・・・ ダンボールの山の上に載っていたK333ESGが目に入り、 そうだね、そろそろ直してあげようか。




高級機の中身

    仕切りで3分割されているシャーシの向かって左側にはトランスポート制御のデジタル回路が入っています。 使われているプロセッサは三菱 MELPS740。 Apple IIのプロセッサであるMostek6502の組み込み専用拡張版のマスクROMバージョンです。

    データシートを読むと、RAMはゼロページ前半に160バイト・・・ スタックを含めて、全部でたったの160バイトしかありません。 データシートにはサブルーチンネスティングは最大80レベルが可能と書かれていますが、 ちょっとまってよ、80回ネストしたらメモリのすべてをリターンアドレススタックで使い切っちゃって、 データはたったの1バイトも記憶できないだろうが。

    機器制御用にI/Oポート・A/Dコンバータ・D/Aコンバータ・タイマ・PWM・シリアルI/Oなどを持ち、 それらのI/Oアドレスはすべてゼロページ後半部に割りあてられています。 マスクROMは6kバイト。 Apple IIでしばらく6502プログラミングを楽しんだ直後 だったので、猛烈に親しみがわきました。 発表から10年も経った6502アーキテクチャが使われていたとは驚きですが、 シンプルなメカテープデッキとテープカウンタを制御する程度であれば6502とメモリ160バイトで行ける、 ということなのでしょうね。






トランスポート修理

    症状からベルト切れがあるのはほぼ間違いがないでしょう。 トランスポートとロジック制御基板・アナログ基板とはすべてコネクタで接続されており、 比較的容易に取り外すことができました。 ロジック基板との接続をつないだ状態でメカ作業が行えるので作業性も良いです。

2021-04-01 モードドライブベルト交換作業開始



    トランスポートにはゴムベルトが2本使われています。 DCサーボモータで直接駆動されるキャプスタンフライホイールとフォロワーキャプスタンフライホイールは平ゴムベルトでつながっていますが、 このベルトはなんとなんといまでも十分に使用可能。 続投することにします。




    カセットドア駆動やヘッドユニット駆動の動力はプーリーを介してゴムベルトで伝導されますが、 このベルトがプーリーから外れていました。 どうやら伸び切ってしまっている様子。 ドアが開かずヘッドユニットも動かないのはこれが原因ですね。 このベルトを交換してやればいいだけの話です。 このベルトはサービスマニュアルでは「モードベルト」と表記されています。





    キャプスタンとリールをモータで直接回す構造だからメカはシンプルな構造のはずと思いきや・・・ モードベルトを取り外すためにこんなにも分解しないといけないとは。 ベルトはどうにか取り外せたけれど、 この様子では正しく再組付できるかどうか自信がないなあ。

    取り外したモードベルトは、なんと切れていませんでした。 液状化とまでは行っていませんが、 ベルトはとろとろに柔らかくなっていて、テンションどころの話ではありません。 しかし溶けてプーリーやその周囲をドロドロに汚しまくっているということもないので、 これはありがたい話。

    本来手順でベルトを交換するにはさらに分解が必要ですが、 リールモータ基板を完全に取り外さずとも取り付けねじを緩めるだけでベルト交換できる隙間ができたので、この状態でベルトを組み込み作業。 ベルトは在庫品でちょうどいいものがありましたが、 ベルト組付には40分以上も格闘することとなってしまいました。




    一晩寝たら組立手順を忘れちゃうかもしれないと思ったので、再組立て作業へ。 幸い、どこも傷めずにネジを余らせることもなく、組みあがりました。 ドア開閉が電動でリモートスイッチで行えるというのは不思議だし、 見ていてかっこいいですね。 写真をクリックしてムービーをご覧ください。

    スピンドルモータはデッキの電源が入っていれば常時回っていますが、 ほとんど無音。 ドアの開閉も静かだし、テープメカの駆動音も静か。 1989年、据え置きタイプカセットテープトランスポートの進化はひとつの理想形に到達した・・・といったところでしょうか。

2021-04-01 モードドライブベルト交換作業完了






鳴らない

    わくわくしてトランスポートをシャーシに戻し、アナログ基板へのケーブルをつなぎ、 テープを入れて再生ボタンを押しましたが・・・ 音が出ません。 レベルメータも全く反応がありません。 そりゃあね、確かに私はさっき、 ベルトを交換しただけですべて絶好調になっちゃったらページ書くほどでもないなあって言ったけどさあ。 君は聞いていたの?

    翌日、再生しても無音の原因調査を始めます。

2021-04-02 再生時無音 原因調査開始

    本気のアナログ回路はシャーシの向かって右側に基板2枚重ねで構成されています。 上側の基板がアナログ電源回路と、再生回路。 下側の基板が録音回路です。 回路図を追うと、このデッキにはソニー製のドルビープロセッサIC CX20188が2個使われています。 録音再生共用で使えるドルビープロセッサICを録音用と再生用にそれぞれ1つずつ使っているってのは3ヘッド機ならではの贅沢設計ですね。 ドルビースイッチでドルビーOFFにした場合も、再生ヘッドからの信号は再生用ドルビープロセッサを通って出てきます。

    CX20188の音声出力ピンにオシロを当ててみると、全く信号が出ていません。 いっぽうドルビープロセッサ入力ピンには30mVp-p程度でテープの再生音が出ています。 ひとまず再生ヘッドと初段ヘッドアンプは正常なようです。 となと、CX20188の故障かな。 もしそうなら、プリアンプを小さな基板でこしらえてドルビープロセッサをバイパスし、 ドルビー機能はあきらめてカセットならではのヒス音を楽しむようかもしれない。





    再生用ドルビープロセッサ周辺を観察すると、ひとつの抵抗器の外装がはがれた状態になっています。 調べるとこれは再生用ドルビープロセッサICのフィードバック用外付け抵抗、R111 560Ω。 1/2W品が使われていますが、 はて、小振幅のアナログ信号しか扱わないICなのに1/2Wの抵抗器が熱でやられるほどの電流が流れるのかな。 電力消費には無頓着でいられる据え置き用途、 音質最優先で電力食いまくりのチップデザインになっていたとしても不思議ではないけどねえ。

    外装が破損しているのは左チャネル用の抵抗器。 この抵抗器の抵抗値が大きく変わっていたとしても、右チャネルは正常に動作するでしょう。 いまは右も左も無音ですから、 この抵抗器が直因である可能性は低いように思えます。 なのでこの抵抗器の調査は先送り。




    右も左も同じように無音なので、ドルビープロセッサが動作できていないのでしょう。 CX20188の電源電圧を測ってみると10Vで正常。 CX20188のデータシートを読むと、ドルビープロセッサの動作は38ピンと5ピンへの印加電圧によって切り替えられる仕組みになっています。 5ピンの電圧を実測してみると、テープがSTOPであってもPLAYであっても、電圧はマイナス電源電圧張り付きの-10V固定です。

    データシートによれば再生モードで動作するにはここは+3Vで以上でなければならないはず。 いっぽうサービスマニュアルでは、ここの電圧は0Vであるとのこと。 3Vと0Vの差はなんなのかわかりませんが、 いずれにせよ5ピンの電圧が-3Vを下回るとドルビープロセッサはCALモードになってしまい再生動作はしなくなりますから、 ここが-10Vではダメなのは明らか。 ここだな。




    回路図を読むと、CALスイッチONのときにトランジスタQ511がONし、通常時0Vである5ピン電圧を-10Vに下げる仕組みになっています。 Q511トランジスタのベース電圧は、CALスイッチOFF時に-11.64Vで、ON時 +14.0Vになっています。 にもかかわらず5ピン電圧は-10V固定ですから、これはトランジスタQ511のコレクタ-エミッタ間ショート故障 (ONまま故障) が起きているということになります。

    抵抗R511の足を浮かせ、トランジスタQ511がONになっても電圧を下げられなくすると、おお! テープ音声が正常に再生されるようになりました。

2021-04-03 テープ音声出ない故障 原因判明 トランジスタQ511 ONまま故障 R511を浮かせて暫定対策






ドルビーOFFで入力信号に反応しない

    夢と時空の部屋に転がっていたテストテープは ソニー スタジオ1980 のテスト用に録音したものだったのでモノラルだし、 当時の最高級モデルであったとはいえHi-Fiとは言えない周波数特性。 音質をテストするためにも、まずはこのデッキで録音してみないとね。 しかし、録音機能も故障しているようすです。

    本機は3ヘッド機です。 リアパネルのLINE INジャックからオーディオ信号を入れてフロントパネルのスイッチをSOURCEにすれば、 録音をスタートしなくてもフロントパネルのバーグラフレベルメータが振れるはずです。 しかし、DOLBYスイッチが DOLBY B MPX FILTER ON ポジションならびに DOLBY C MPX FILTER ON ポジションではメータは振れるのですが、 DOLBY OFF ポジションではメータが反応しません。 さらにDOLBY BポジションならびにDOLBY Cポジションでは、 しばらく正常に反応したかと思うとふっと反応がなくなってしばらく無反応になったり。 動作が不安定です。

    とりあえずメータが反応しているDOLBY B MPX FILTER ONモードで録音してみましたが、 テープの再生音にはひどいハムが重畳しています。

    2011年08月に故障して修理待ちになったとき、 それはヘッドアセンブリが動かないというメカ故障でした。 それまで再生機能は正常に動作していました。 だから、再生機能の故障 - トランジスタQ511の故障は、 9年8ヶ月の非通電保管中に起きた故障です。 録音機能の故障も同じようなものかもしれません。 ただし2011年はほとんど再生専用機として使っていましたから、 そのころに壊れていたという可能性もありますけれど。




    まずはドルビースイッチポジションによってメータが反応しない件。 問題の挙動は左右チャネルに同時に発生しますから、 再生回路の故障と同様に、ドルビープロセッサのモード切替え制御がうまくいっていないのでしょう。 Pin38の挙動は正常と思えるものでしたが、 Pin5の挙動は不安定だし、サービスマニュアルに記載されている電圧レベルとも大きく異なります。

    Pin5制御ラインの電圧を引き下げるトランジスタQ527を切り離すために、 抵抗R541の足を浮かせました。 試してみると正解だったようで、ドルビースイッチがどのポジションにあっても正常にレベルメータが振れます。 CALスイッチの機能を殺したことになるので応急措置ですが、 まずはこの状態でテストを続けます。

2021-04-04 録音回路 ドルビーポジションによって入力に反応しない R541をカット 録音動作開始






盛大なハム

    さあ録音回路も動作しだしたし、テストテープに録音を・・・ しかし盛大なハムが乗るという状況は変わらず。 まあ、これは予期できたことです。 これは2011年以前にはなかった症状ですので、 長期保管の間になにか起きちゃったんですね。 録音動作不良の調査中に気づいた、電圧の不安定な変動。 そしてハム。 これはどこから来るのでしょう。

    回路図を読んで、録音時のシグナルフローを学びます。 背面LINE INジャックからの信号はCX20188 ドルビープロセッサのREC-INピンに入り、選択されたドルビー処理を受け、 あるいはOFFモードならドルビー処理を受けずに、REC-OUTピンから出てきます。 REC-OUTピンの波形を観察すると、ここではハムは混じっていません。
    REC-OUTピンの信号は、録音ミュートが作動しているときはQ102 REC MUTEトランジスタがONになることでシャントされて無音になります。 録音時はついでトランジスタQ103でLCフィルタが入れられますが、これはTYPE-Iテープを使うときの補正用。 信号はさらにIC506 NE5532Pで増幅されますが、ここは録音時のイコライザとして動作しています。 このNE5532Pのイコライザ出力を見てみると、ひどいハムが混入しています。
    ではハムが入り込んでいるのはこのイコライザアンプなのか、それともその手前のトランジスタか。 使用するテープがTYPE-IであってもTYPE-IVであってもハムの入り具合は同じです。 ならばREC MUTEトランジスタだろうか。 REC MUTEトランジスタ Q102のベース電圧を見てみると、 250mVp-pでノコギリ波に近い波形のハムが観察できます。

    REC MUTEトランジスタのベース電圧は、Q519 BN1F4Mトランジスタで生成されます。 Q519のベースは、システムコントロールボードからの制御電圧でON-OFFされる仕組みです。 コントロールボードからの制御信号を受けたベース電圧の実測値はサービスマニュアル通りのものであり、 ハムは入っていません。 また、このトランジスタのコレクタはプラス電源の+10Vであり、ハムはありません。 しかしエミッタ側は・・・回路図上では-10V電源ラインなのですが、 ええっ? -15Vもあるよ? しかもここでAC周波数のリップルが乗っている。

    なんと! 電源回路がイッちゃってる!

2021-04-04 マイナス電源回路の故障を確認






暫定修理

    しかしこんな基本的なことに気づかずにいたとは。 おそらく作業開始したときは-10V電源は正常に-10Vを出していて、 作業を進めるうちに故障が発生したのでしょう。 回路図を見ると本機はシステムコントロールボード上にデジタル系電源回路を、 再生アナログボード上にアナログ系電源回路を持っています。 アナログ系電源はプラスマイナス10Vの両電源で、 同一の回路構成で独立したプラス10V電源回路とマイナス10V電源回路を持ちます。 回路構成はシリーズドロップ型ですが、トランジスタを4石使い、 温度変化にも安定とになるよう配慮されています。

    さてこの-10V安定化電源回路が-15Vを、 おそらく入力電圧をそのままドロップさせることなく出してしまっているとすれば、 考えられるのは・・・ まずは基準電圧発生用ツェナーダイオードの基準電圧を見るようですね。 オシロのプローブをツェナーにフックしようとしたら、 ぐしゃっという手ごたえとともに、ツェナーダイオードの足が折れました。 うわあ。

    近くの電解キャパシタ振動対策用の充填剤による化学攻撃を受けたか、 電解キャパシタからの液漏れあるいはガス漏れによってか、 ツェナーダイオードのリード線が腐食していたのでした。 今回修理開始当初はそれでも導通があって、-10Vを出せていたのでしょう。




    シリーズドロップトランジスタはTO-220パッケージの2SA985で、 小さな放熱器に取り付けられており、筐体内で自然空冷されています。 トランジスタの最大コレクタ電流は-1.5A。 電源回路としては小ぶりなものですね。 カセットデッキの小信号を扱うだけですからこれでも十分に余裕があります。

    左右対称にレイアウトされた+10V電源のツェナーダイオードのリード線も表面酸化あるいは腐食の兆候は呈してますが、 -10V電源回路のそれほどではないので今回は手を付けず、 -10V電源回路だけを修理することにします。 ツェナーダイオードと周囲の部品 - 抵抗1本と電解キャパシタ2個 - を取り外し、 基板の部品面・はんだ面の両方を軽く研磨清掃して、 新品部品を組付けます。

    ・・・といいたいところなのですが、 ツェナー電圧6Vのツェナーダイオードの在庫はありません。 470uF 65WVの電解キャパシタの在庫もないし、56kΩ 1/4Wの抵抗もありません。 なので、470uFは220uF 50WVを2個並列にして、56kΩは22kΩと33kΩを直列にして。 ツェナーダイオードの代わりには、発光ダイオードを使いました。 手持ち品の赤色1個と黄色2個を直列にしたらちょうど5.95V程度になりましたのでこれで行きます。 組みあがった電源回路の出力は-9.0Vでぴったり安定。 電圧フィードバック抵抗の抵抗値を変えて-10Vに合わせこむのが本来ですが、 安定していれば-9.0Vでもまあ行けるでしょう。 そのうち6Vのツェナーダイオードが手に入るまでこれでいこう。

    暫定ながら修理ができた-10V電源でデッキを動作させてみると、 おお、ハムはいっさい混入せずにきれいに録音できています。 やったね!

2021-04-04 -10V電源回路修理






どうですすごいでしょう

    しかしそれにしてもね、この高級カセットデッキの電源トランスは非常識な大きさ! 1980年代終わり、いかに多くのオーディオユーザが 「大きな電源トランスを持っていれば高級機」という認識を持っていたかということでしょう。 もちろんそれはパワーアンプであれば総じて正しい傾向だし、 電源インピーダンスを下げたり余裕度を増せば性能は良くなる方だし、 シャシーを重く頑丈にすれば振動に対しても強くなるのは間違いはないでしょうけれど・・・ さすがにこれはやりすぎですね。

    ここまでくると一般消費者をバカにしているのではないかとも思ってしまいます。 でもそれは多分逆で、 一般消費者がとにかくでっかくて重いトランスがついているモデルを喜んで買っていくので、 販売戦略上そうせざるを得なかったのだろうと思います。 いずれにしても、ほとんど必要もないのに無駄に大きくて重いトランスがシャシーの中央にデン! と据え付けられているこのカセットデッキ、いかにも高級機でかっこいいよ!



Q527を元に戻す

    -10V電源が正常になり (暫定対策なので-9.0Vですが)、K333ESGは調子よく動作しています。 ボード上の回路動作を調べ始める前にまずは電源電圧をチェック・・・とは基本の基本ですが、 それを守らずApple IIの修理作業で大きな回り道をしてしまい、 今回またしても自分にハメられた形になってしまいました。 けれど、テストを始めた時点では-10Vが出ていたフシもあります。 テストを進めていくうちに故障個所の状況が変化してしまうと故障個所特定の推論ロジックが騙されてしまうこともありますね。

    で、本機の修理の第2段階は録音ボードの修理 - ドルビーOFFのときに入力信号に反応しない、 ドルビーB/Cのときに入力信号に反応しないことがある - の調査では、ドルビープロセッサの動作モード切り替え用トランジスタQ527の素子故障であろうと結論しました。 しかしそれは、 -10V電源ラインの電圧が-15Vまで下がったことによって制御ラインの電圧レベルが狂ったためだったのではないかと思えます。




    そこで、浮かせていた抵抗R541を再び接続し、 トランジスタQ527を再接続します。 CX20188の5ピンの電圧を測定してみると・・・ 結果は右の表。 ドルビープロセッサは正しく動作しています。 サービスマニュアルに記載されている電圧値との偏差は、 -10V電源電圧が-9.0Vしかないその10%のズレの影響で説明ができます。

    結論。 CAL SWITCHトランジスタ Q527は正常。 録音ボードの動作不良はマイナス電源回路の故障が引き起こしていました。 録音ボードのキャリブレーション機能は正常に動作するはずです。


2021-04-10 録音ボードの不調はトランジスタQ527の故障ではなかった






再生ボードCAL機能復活

    再生ボード上のCAL制御トランジスタQ511の代替品を取り付けたとき「変なことが起きた」と書いたのは、 端子電圧が-14.8Vまで落ちたのを見たからでした。 この回路構成ではどうやっても-10V以下には落ちないはずだ。 何かがおかしい。 なので代替トランジスタをあわてて取り外し、Q511は切り離したままにしていました。 しかし今ではどうして-14.8Vになっていたのか容易に説明できます。

    ということで、代替トランジスタをもう一度組み込みます。 オリジナルのBA1L4Mはバイアス抵抗内蔵型のトランジスタ。 まったくの互換品はラボには在庫がないので、 2SC2002の新品在庫を一つ取り出し、 47kΩ2本を空中配線してBA1L4Mと同等としたもの。 これを組付けてテストすると、 CAL OFF/ON時のCX20188 5ピンの電圧は、 -10V電源電圧が実際には10%不足していることを加味して期待通りの測定値が得られました。 よし、これで再生ボードのキャリブレーション機能も正常になったはず。

2021-04-11 Q511 代替トランジスタに交換





カセットの音とは思えないや

    これで本機の自慢、キャリブレーション機能が使えるようになったはず。 お宝の新品メタルテープの封を切って、 ドルビーCで、かつドルビーHX PROもONにしてキャリブレーションを行い、 かつ録音バイアスは高域増強設定にして録音します。 さあ、1989年のカセットデッキの実力をみせてもらおう。

    REC CALIBRATIONのバイアス調整ポテンショメータにはわずかなガリがあったようですがすぐにスムースな調整ができるようになりました。 再生してみると・・・ これが本当にカセットの音?

    ソースと全く区別がつかない、とまでは言い切れませんが、 静かな部屋で効く程度の音量でスピーカで効く限り、 リーダーテープと磁気テープ部が聞き分けられないほどにヒスノイズは抑えられています。 ワウフラッタはまったく気にならず、 シンバルやティンカーベルの高音域は自然にすっきり伸びていて、 ベースが強い部分でも中高域は濁らず。




    考えてみればこのデッキ、 手にした後にテープに録音することはなく、 昔のテープを聴くこと専門に使っていました。 だから3ヘッド機ならではのキャリブレーション機能も、 DOLBY Cも、DOLBY HX PROも、事実上一回も使ったことがなかったのです。 今回初めて、K333ESGの本来のパフォーマンスを聴かせてもらったということになります。 1990年代初頭、経済力のある人はこんないい機材でカセットを楽しんでいたのですね!

    ヘッドフォン出力も正常に動作。 ヘッドフォン出力の残留ノイズは皆無といってよいレベル。 フロントパネルにヘッドフォンボリュームがあるので、 最小信号経路でのストレートな音を聞くこともできます。 ただし私の場合は耳の特殊な特性のためにトーン補正をかけていない状態では音楽を楽しむことはできず。 わたしにとってはあくまでもモニタ用のジャックです。

2021-04-11 メタルテープでフル機能録音テスト






ボトムカバーを塗装する

    本機は、フロントパネルは傷も多くはなくきれいな状態ですが、 トップ/サイド一体のスチール製ケースカバーは塗装の荒れ、また細かなサビが目立ちます。 普段は目につかないシャシーとボトムカバーはというと状態はさらに悪く、 みっともない、に近い状態。 シャシーは一度臓物をすべて取り外して清掃し、スプレーを拭いてしまいたいところです。

    さすがにそれは手間なので、いまはボトムプレートだけアクリル塗料スプレーを吹いてしまいましょう。 オリジナル高忠実レストアをされる方からすれば邪道中の邪道なんでしょうけれどね。

2021-04-20 ボトムパネル 黒色アクリルスプレー塗装施工




SERVICE SUMMARY

SERVICE DATE SYMPTOMS ROOT CAUSES REMEDIES NOTES
2021-04-01 Tape transport doesn't work Mode Belt Failure. Replace the mode belt with new one.
2021-04-04 -10V Powersupply Voltage goes to -15V with apparent AC ripple. This caused the dysfunction of the recording board, and caused loud hum in the recorded sound. Device failure - 6V Zener Diode lead was corroded and disconnected. As a tentative measure, alternate reference voltage device (a series of 3 LEDs) is used. 56kOhm register and 2 elecrolythic capacitors were replaced with new ones. Need to replace with proper 6V Zener diode.
2019-04-11 No audio in playback CAL control transistor Q511 was faulty. Replaced transistor with equivalent one. 2021-04-03 tentative fix by disconnecting Q511. 2021-04-11 component replaced.


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