NoobowSystems Lab.

Radio Restoration Projects

SONY CF-1980 "Studio 1980"

Radio Cassette Corder
(1974)



SONY Studio 1980



複雑な思い

    1976年、英語教材用としてとうとう買ってもらえたナショナルパナソニックRQ-542はナショナルのラジカセの中でも低価格モデルでした。 それでも親戚さんはひきつづきソニー スタジオ1780を貸してくれて、ダビングしてオリジナルテープをつくったりと楽しく過ごしていました。 そんなとき、友人の一人は当時の最高級モデル、スタジオ1980を使っていました。 ハンサムなスタイリングはもちろん、機能・性能面でもトップモデル。 こちらは最低価格モデルでも買ってもらえただけ幸せ過ぎるほどの困窮家庭でしたから、 最高級モデルを与えてもらえる友人が妬ましくないといえばウソになります。

    ある日その友人の家に数人で遊びに行って、スタジオ1980の音を聞かさせてもらいました。 ら、あれ? こんなものなの? 自分の中で最高級モデルへの夢を膨らませ過ぎていたのかもしれません。 たしかに自分が使っているモデルでは望めないほどに高音が伸びて出ているのですが、 それがいい音だとは感じられませんでした。 むしろツイータからはテープヒスノイズがやたらと耳についてしまい、 音楽に没頭するという風ではなかったし、リラックスできるような音とも思えませんでした。 「高音が良く出るからテープヒスがつらいねえ」とかその友人に思ったことをそのまま言ってしまいました。 その友人はいいヤツだったから聞き流していましたけれど、 貧乏人の僻みとして受け取られてしまったのでしょうね。

    ソニー・スタジオ1980は、そんなわけで憧れのマシンでしたし、しかし自分の境遇では望むべくもない夢でしたし、 それを使っている同級生への妬みとが絡み合った象徴として、小学5年生のころから自分の心の中にあり続けています。

    就職して独身寮に入って何年目でしたか、休日に食堂でくつろいでいたら後輩が来て

「danさん、これ要ります?」

と、私の目の前にラジカセを置きました。

「こっこれはスタジオ1980じゃないか! どうしたのこれ?」

「やっぱりdanさんならすぐ分かると思いましたよ。もう使わないし、もうじき引っ越すので、あげます。 もし引き取ってくれないならゴミに出そうと思って」

「バカいえ、これをゴミに出すだなんてバチが当たるぞ!」

「ですよね。だから、もらってくださいよ。」

    ということで期せずしてわたしはスタジオ1980のオーナーになりました。

    そのころはさすがにモノラルラジカセを使うニーズはなく、 本調子ではないことを確認したあと実際には使うことはありませんでした。 2011年に第3研究所を開設したときは、そこで修理してやろうかと思って持参したのですが、 実際にはキッチンのラックに収まったインテリアとして電源を入れることもありませんでした。



30年の眠り

    日増しに高まる新型コロナウイルス感染爆発の懸念の中、2020年3月27日、勤務先拠点に出社禁止令が出ました。 会社の実験設備を使わねばならない勤務員を除き、全員在宅勤務せよ、と。 私の業務は基本的にはすべてネットワークとラップトップ一台あればすべて済みますので3月に入ってからは大半を第3研究所で行っていましたが、 とうとうそこまで来たか。 これは1週間2週間は在宅勤務になるだろう。 その日も在宅勤務をしていましたが、 社内SNSで公報された通知を読んですぐにオフィスに出向いて書類をいくばくかと業務ノートを持ち出して第3研究所に戻り、 Noobow9200Bをシャットダウンして、中央研究所戻りの準備をしました。 第3研究所は、新型コロナの影響により当面の間、閉鎖。

    5月の連休明け、第3研究所を再開。 この連休で中央研究所保管室の片付け整理が進み、在宅勤務に使えるスペースになりました。 在宅勤務が主流になる状況と、さらにこの先のことを考え、 5月以降の毎週末の通勤で、第3研究所で使っていない機材等を中央研究所に少しずつ - 毎回容積にして80リットル分 - を ティル に積み、 引き揚げ始めています。 いつか着手しようとしてほぼ10年近く置いてあったスタジオ1980も、中央研究所に引き揚げ。

    2020年07月、メンバーの大半が在宅勤務という状況が続いていますが、 次第にその状況にも慣れてきました。 休日は夢と時空の部屋の整理に加え、機材の修理などの作業も始められるようになりました。 引き揚げたスタジオ1980はどんな具合だろう。 ほぼ10年間無通電でただ部屋の飾りとなっていたラジカセの状態を見てみます。

    ACプラグを挿し込んで電源を入れてみましたが全く反応なし。 でもこれはACジャックの内蔵スイッチ - ACプラグが差し込まれているかどうかで内蔵乾電池とAC電源回路を切り替えるスイッチ - が接触不良である様子。 何度も試すうちにポコンとスピーカから音がして、メータが触れました。

    チューニングつまみを回すとFM群馬とNHK前橋FMのところでチューニングメータが振れます。 FMラジオ受信回路は動作しているようす。 しかし音は全く出ません。

    本体左サイドのLINE INジャックに音声信号を入れると、おや、 スピーカからいい音で音楽が聞こえてきました。 音量音質ともに正常、 ボリュームコントロールもトーンコントロールもガリはありません。 うっそ、すくなくとも10年は全く動かさずに放置していたのに。 2系統あるミキシングボリュームにはガリがありましたが、 繰り返し回しているうちに解消。 スピーカからは結構豊かな低音が出ています。 モノラルながら、パワードスピーカとしては十分に実用可能。 なにより驚くのは、AC電源で動作させいているのに、ハムが皆無。 電源平滑の電解キャパシタが生きているということです。 45年も経っているのに、そのうち直近10年は通電もしていなかったのに、ですよ。




    さらに驚いたことに、テープドライブのベルトも切れていません。 テープ走行は安定していないのでメンテナンスは必要ですが、 キャプスタンもテイクアップリールもリワインドリールもすべて弱くないトルクでまわります。 テープカウンタも動作しているし。 およそ10年経過したカセットテープ機でベルトが切れていなければかなりの驚きですが、 生産後45年経過しているのにベルトが切れていないというのは実に驚きです。 昔のベルトは質がよかった・・・のかどうか。

    LINE INから音楽を入れて録音してみると、あれ、ちゃんと録音されているし、 サービス前にしてはかなりいい調子で鳴ります。 シンバルやハイハットの音もきちんと入っていて高音も良く伸びています。 というか、高音が伸びすぎていてむしろ耳障り。 トレブルコントロールをかなり絞って丁度いい感じ。 なんてことだ、この時代のラジカセで再生時に高音増強しないといけないなんてあまり経験がないぞ。

    電源の接触不良は、ACジャックスイッチの接点接触不良ではなくて、AC電源ケーブルの機器側コネクタ直近の内部断線症状でした。 このケーブルは使用禁止。 幸い同じSONY製ケーブルがありますのでそれに切り替えて、 完調とはいえないカセットで音楽を聴いて過ごします。 今夜はここまで。 まとまった時間ができたらゆっくり取り組もう。

2020-07-14 外装ホコリ落とし FMラジオ高周波回路 アンプ動作確認 テープ録音再生動作確認






ドライブベルト交換

    八重洲無線FR-50 のSメータの修理を終えて一段落させ、 つぎは足元に置いてあるスタジオ1980の修理を始めよう。

    リヤパネルは長いスクリューを緩めるだけで簡単に外せます。 リアパネルを開けると、テープトランスポートはメインのプリント基板に完全に隠されてしまっています。 これは面倒だなと思いましたが、 実はプラスネジのスクリューを2本外すだけで一切配線を切り離したりコネクタを抜いたりすることなく、 プリント基板がナイロン樹脂製のヒンジで90度以上開き、メカにアクセスすることができます。 おお、これは素晴らしい。

Photo after servicing

    モータとフライホイールをつなぐゴムベルトを交換するためには、 フライホイール背面でキャプスタンシャフトを押さえるしっかりしたプレートを取り外す必要があります。 が、センター穴つきのマイナスネジが固く、ネジ頭をナメてしまいました。 でも大丈夫、こんなこともあろうかと。 新品で買った以降一度も使ってなかったネジザウルスGTの出番。 さすが評判の道具だけのことはある! ネジザウルスGTは緩まなかったネジを一発で緩めてくれました。

    ゴムベルトが融けていないので清掃作業はとても楽です。




    メインドライブベルトとリールドライブベルトを新品に交換し、テープ走行は当初よりもずっと安定しました。 が、まだ完調には遠いです。 テープ走行ムラは明らかで、1974年のソニーの最上位機種がこんなはずはありません。 音質も不満足。 高域が出過ぎているのもそうですが、何かそれだけでない変な音の悪さがあります。 しばらく様子をみながらあちこちつついて、でしょうね。

2020-10-03 テープトランスポート メインドライブベルト & リールドライブベルト交換




    スローなピアノソロを聴ける安定度は出ていないので、 ワウフラッタが目立たず、 周波数特性の非平坦性があまり気にならないゲーム音楽的な打ち込み音楽でしばらく楽しみました。 だんだんいい感じになってきています。

    この時代のラジカセは、 カセットハーフは上下逆さまにし、テープ露出面を上にしていれるタイプが主流。 カセットのイジェクトボタンを押すと、ガチャン! と大きな音を立ててドアが開きます。 これを防ぐために、イジェクトするときはボタンを押すと同時に親指をカセットドアにあてて、 ドアが静かに開くようにする・・・ このビデオを撮影して再生して初めて、 小学生のころに染み付いたそういうクセがいまも自分の中に残っていることに気がつきました。





オーディオ入力回路調査

    さあ、FMの音が出ない調査にかかろう。 本機にはφ3.5mmミニジャックのLINE IN入力があります。 ここにプラグを指し込むと内蔵ラジオの音声は切れ、 外部からのLINE信号を聴いたり録音したりできます。 MIXINGスイッチをONにすれば外部マイクロホン信号と外部LINE信号のレベルを本体上面にあるレベルつまみでそれぞれ調整でき、 フェードイン・フェードアウトを効かせたオリジナルテープつくりができます。

    ラジオの音声はこのLINE INジャックまで来ていて、プラグが刺されていなければ次段に送られるはずです。 LINE INジャックまわりを調べて、こに来ていてるはずのラジオ音声信号を見てみます。

    メインボードのLINE INジャックまわりのパターンを追い、 ラジオまたはLINE INの選ばれたどちらかが後段のミキシング回路に出ていく箇所が分かりました。 いまのところミキサ回路とトーンコントロール、さらにメインアンプは正常に動作していると思えるので、 ここにバイポーラの1uF電解キャパシタを片足だけはんだ付けして、テスト用信号を直接注入できるようにしてみました。

2020-10-03 LINE INジャック回り構成調査




チューナボード調査開始

    LINE INジャック周辺に来ているラジオ音声信号は、なんだか奇妙な挙動をしています。 ときたまFMラジオが正常に聞こえることがあるのですが、 長続きせずに音が突然小さくなり、あるいは無音に。 いろいろつついていると、信号をグラウンドに一瞬強制ショートするとその直後に快調になり、 1分と経たないうちにまた音が消えるとか。 それを説明できる明確な機序というものは思いつきませんが、 電解キャパシタの劣化はこういう挙動に寄与しても不思議ではないかな。 チューナーボードの検波出力周りだろうか。 なので、チューナーボードのピン機能を調べ始めました。

    ボード右下にある、赤と白の芯線をもつシールド線がチューナーボードからの音声出力のようです。 赤がFM音声、白がAM音声。 赤からは、FM受信時は受信音声か局間ホワイトノイズが出ますが、不安定で、ふっと音が消えて無信号になってしまいます。 ボード左側にある赤ワイヤがつながるピンはFMのチューニングメータ指示電圧であると見えて(*)、 信号が受信できているときは4V程度を示しますが、 FM音声が無音になるときは0.5Vとかの低い電圧になります。

2020-10-03 チューナーボード調査開始 (*) これは誤りであると後で判明



(図内記載内容は調査が進んだ後のもの)

    チューナーボードには電解キャパシタがいくつかありますが、 液漏れのようなものを示しているものがあります。 し、キャパシタのフィルム外装はなんだかデコボコしていて、内部の劣化を物語っているふうです。 バリコンの左側がFMの高周波回路のようですし、 電源平滑用とおぼしき大きめのキャパシタをまずは交換してみました。

    しかし残念、症状は変わらず。

    取り外した100uFの電解キャパシタはいずれも、 アナログテスタでチェックする限りちゃんと容量を維持しているふうです。 はて、この汚れはキャパシタの液漏れではなくて、 キャパシタボディをスピーカとの振動共振から保護するための接着剤が固まる前に流れ落ちた跡だったりするのかな。

2020-10-03 チューナボード電解キャパシタ交換 症状変わらず





局発が止まってる!

    FMの音が出ないとき、ザーっという局間ノイズになるのではなく、 音が小さくなり、さらに無音になります。 となるとFM検波段の不具合なのかな。 もしそうなら、そうだ、局部発振器の動作の具合を見てみよう。 検波段の不具合なら、 音が出ているときも出ていないときも、局部発振器は動作を続けているはずです。

    CF-1980のFMラジオを90MHzに合わせ、ポケットFMラジオを79.3MHzに合わせると、 CF-1980のFM局部発振器の出力の漏れを聞くことができます (90MHz - 10.7MHz = 79..3MHz なので)。 局発が発振していればポケットラジオは無音になり、 ザーっという音が聞こえれば局発は発振していない証拠。

    試してみると、あれあれ、スタジオ1980の局発は安定しておらず、不規則に動作したりしなかったりしています。 そしてそれに合わせ、チューナーボード左側の赤ワイヤがつながったピンの電圧が変化します。 ううむ、どうやら局発が発振停止しているようだ!

    局部発振器の動作が止まれば受信回路は10.7MHzの中間周波信号を生成できなくなりますから、 音が全く出なくなるのは当然のことです。

2020-10-03 FM局部発振回路の間歇的な発振停止を確認

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    チューナーボードの部品配置と基板パターンを追いかけ、 FM局部発振回路の仕組みを調べます。 ポリバリコンの"FO"と書かれたターミナルがFM局部発振器用のステータですから、 ここをスタートポイントにして回路を追っていきます。 どうやらバリコンのすぐ下にあるのがFM局部発振トランジスタらしく、 その周囲は固定用ワックスが流し込まれています。 黄色いコアが見えるのがFMの局部周波数発振コイルでしょうか?






局部周波数発振回路を調べる

    黄色コアのトランスの隣にある100uF電解キャパシタは局部発振器専用の電源平滑用キャパシタであることがわかりました。 これだな・・・ このキャパシタが劣化して不安定なリークを起こし、 局部発振器の電源電圧が落ちてしまっているに違いない。 でも残念、新品100uFに交換しても局部発振器は発振しません。

    となるとこれは、トランジスタの故障に違いない。 素子劣化による局発の発振停止というのは、 そういえば SBE SBE-34 のときに経験したな。

    電解キャパシタひとつとトランジスタを取り外して、ちいさなキャパシタもひとつ取り外し、固定ワックスを除去して、 局部発振回路の構成をさらに調べます。 黄色いコアが見えているのは局部周波数発振コイルではなくて、初段の10.7MHz中間周波数トランスでした。 発振コイルは、トランジスタのすぐ近くに置かれた、メタルケースなしの小さなむき出しコイルでした。 そのまたすぐ近く、バリコンに接するようにして、AFCダイオードがありました (写真ではピンボケになってしまっています)。

2020-10-04 FM局部発振回路構成調査






局発トランジスタ交換を試す

    局発トランジスタは高周波用トランジスタ2SC710です。 このタイプのトランジスタの劣化故障というのは世間で多発しているようですから、 このトランジスタを交換してみましょう。 ラボの在庫に高周波用として適切な代替品が見つからなかったので、 2N2222を代わりに入れてみました。 高周波用に設計されたトランジスタではありませんが、 100MHzを発振するだけだったら十分にこなせるはずです。

    2SC710と2N2222はピン配置が違うので注意しながら2N2222を取り付け、期待しながら電源を入れてみます。 が、やはり局部発振器は発振しません。 昨日までは正常-異常が不安定に繰り返されていたのですが、 いまや局発は全く発振せず。 ワックス除去作業中にどこかを痛めてしまったのか、 それとも半田こての熱でどれか壊れかけの素子が完全に死んだのか。

    それでも変ですね、 つまるところ原理的にはシンプルなトランジスタ1石の発振回路。 安定度とか振幅とかスプリアス純度とかの性能はともかくも、発振くらいしてくれそうなものですが。

2020-10-05 局発トランジスタ交換を試す






あのう、コレクタ電圧がゼロなのですが

    なんで発振しないのかなあ。まずはトランジスタのコレクタ電圧を測ってみると・・・あれえ? ゼロだ!

    ということはトランジスタがONままになっている? じゃあベース電圧がすごく高くなっているはず・・・なのにベース電圧もゼロ? テスタが壊れた? でも元電源はちゃんと4.4Vを示すよ? コレクタ抵抗がオープン? コレクタ抵抗の上流電圧もゼロだ・・・ その上流はどうなっているのかというと・・・

    局発トランジスタのコレクタからスタートして電源上流に向けて回路を遡っていき、 ようやくチューナーボードの仕組みが見えてきました。 当初FMのチューニングメータ指示電圧出力だと思っていた赤色ワイヤがつながるピンは、 FM受信回路の電源だったのです!

    本体電源回路からのDC4.5Vはチューナーボードに入ってFM/AM共通の部分を動作させ、 チューナボードからいったん出てトップボードに向かっています。 おそらくそこにあるバンドセレクタスイッチでFM/AMのどちらかの受信回路だけに電源を戻してくる仕組み。

    FM受信時にだけ電源が供給される赤色ワイヤからの電源は、それぞれに用意された抵抗を通ってFMの高周波増幅トランジスタ、 FM混合トランジスタ、FM局部周波数発振・FM中間周波増幅第1段・第2段・第3段(あるいは振幅制限)のトランジスタにコレクタ電圧とベース電圧を与えています。

    同様にしてオレンジ色のピンはAM受信回路の電源のようです。

    つまり、前述の「局発間歇停止」のビデオに写っているアナログテスタの指示は、 チューニングメータ指示電圧ではなくて、FM受信回路の電源電圧だったのです。 電源が来なけりゃあ、そりゃあ局発は止まるよな!




    赤ワイヤをチューナボードから切り離してみると、しかし不思議なことに、 赤ワイヤにはアナログテスタの読みで4.4Vが戻ってきているのです。 それならどうして局発トランジスタのコレクタ電圧がゼロ?

    4.4V来ている赤ワイヤをチューナボードのFM電源ピンにつなぐと、途端にその電圧はゼロに落ちます。 ということは?

    FM受信回路のどこかでショート故障が起きているのでしょうか? 回路を追うと、仮にFM受信回路のどれかのトランジスタの電極間ショート故障が起きたとしても、 コレクタ抵抗が入っていたりベース抵抗が入っていたりして、 ゼロΩにまでは落ちないはずです。 実際に赤ワイヤとチューナボードFM電源ピンの間に電流計を入れてみると、 全く電流が流れません。 どうやらこれは、トップボードのバンドセレクタスイッチかその周辺で、何らかの高抵抗を介して4.4Vが戻ってきていると見えて、 FM受信回路電源の電流供給力が極端に落ちていると見えます。

    であれば、茶色の本体電源ピンと赤色のFM電源ピンをみのむしクリップで直結すれば・・・・ 鳴った!!!

2020-10-05 チューナボードFM受信開始 - 原因はバンドセレクタスイッチ周辺にありそう


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トランジスタのコレクタ-エミッタ間静電容量

    バンドセレクタスイッチをみのむしクリップでジャンプしてFMラジオは快調に受信できていますが、 テストオシレータ代わりに使っている FMトランスミッタ の89.2MHzの信号は受信できなくなってしまいました。 どうやらトランジスタ故障を疑って交換したFM局部発振器の2N2222は、 そのコレクタ-エミッタ間静電容量がオリジナルの2SC710に比べて大きいのでしょう。

    FM局発バリコンのトリマを回して再調整する手もありますが、オリジナル2SC710は無実だったわけですから、2N2222をやめて2SC710に戻しました。 元通り、91MHzあたりまで受信できるようになりました。

2020-10-06 FM局発トランジスタをオリジナルの2SC710に戻す





AMラジオの音質

    チューナー電源とチューナー出力をみのむしクリップで切り替える必要はありますが、 AMも快調に受信できるようになりました。 AMは受信感度も分離も安定度も良好で、大径スピーカで落ち着いた音で楽しめます。 が、強力な局、具体的にはNHK東京第2、を聴くと声がこもって聞こえます。 検波出力がトップで飽和しているかのような感じ。

    原因は深くは調査せず、チューナーボード上の電解キャパシタを全数新品交換することにしました。 検波段付近にあるC134 3.3uFについては在庫がなかったので4.7uFを使用。 結果、よしよし、NHK第2の音質もよくなりました。

    電解キャパシタのひとつはチューニングメータの振れをゆっくりにするもの。 交換前後でメータの振れ具合に変化は見られませんでした。

2020-10-06 チューナーボード 電解キャパシタ全数新品交換





バンドセレクタスイッチ修理

    FM受信できない問題はどうやらトップボードのバンドセレクタスイッチ周辺にあるようです。 実はここまで書いていませんでしたが、 このスタジオ1980の個体は、入手時にすでにバンドセレクタスイッチレバーが折れてFM固定のままになっていたのです。 もうAMラジオの深夜放送をテープに録音することなどないし大して困らないだろうと思っていましたが、 レバーが折れて動かせなくなったゆえ、接触面酸化が削られず悪化の一途、というのはあり得そうです。

    カセットコンパートメント内のネジ1本を外し、 つまみ類を外してフロントパネルを取り外して、 トップボードを露出できました。 おお、バンドセレクタは特別な仕掛けはなく、 単にFM/AM受信回路の電源を切り替え、 またFM音声出力/AM音声出力のどちらかを選ぶだけの簡単なものだ。 ならばスイッチ内部の接点不良で確定だね。

2020-10-06 バンドセレクタスイッチ故障を確定







    さて修理はどうしたものか。 ネジを打ち込んで失われたレバーを復活させる手もあるかもしれませんが、 ワタシそういう模型工作的なのってすごく苦手だしヘタクソなんですよね。 まあまずはスイッチを取り外してみました。

    スイッチは2回路双投。 アナログテスタで調べてみると、ON接点の抵抗値が2回路のどちらも8Ω程度ありました。 接点の具合ははんだシュッ太郎を当てたときに変わってしまったでしょうが、 接触不良だったことには間違いがありません。





    中央研究所の部品在庫を見ると、 ターミナルピッチが完全に同一ではないものの近いスナップスイッチがあったので、 これに交換することにします。 プリント基板ホール径をドリルで拡大し、 ジャンパーリードで接続。 スイッチ取り付け強度が不足するところはゴム系接着剤を流して固定することにしました。




    バンドセレクタスイッチの見た目はオリジナルじゃなくなっちゃったけど、 同等の実用性は確保できました。 ワンアクションでAMとFMが切り替えられるだなんてなんと便利な!!

2020-10-07 トップボード バンドセレクタスイッチ交換


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しかし汚い

    フロントパネルが外れてテープトランスポートのフロント側が見えているので、 テープカウンタドライブベルトを新品に交換しました。 テープカウンタのドライブギアには汚れがこびりついており カウンタが回るとカコン・・・カコン・・・と音が出るので、 爪楊枝と洗浄スプレーでギアの汚れを落とし、とシリコン潤滑スプレーを噴いておきました。

    それにしてもこのラジカセは汚いな。 リアパネル側は入手直後に一度開けて清掃したのかもしれません、 さほどの汚れはありませんでした。 しかしフロントパネル側を開けたのは今回が初めて。 内部はどこもかしこも茶色の繊維ボコりがたっぷりです。 そしてその茶色の綿埃はうっすらと油分が含まれています。 はたしてこのラジカセはどういう環境に置かれていたのか。 昭和レトロな温泉旅館に見られるような、茶色の、毛足の長いふかふか高級ジュータン。 3日に一度は電気プレートを使った焼肉の夕食。 そんな裕福な家庭で使われていたのかな。 父親の病気で家計が困窮し、ラジカセを買ってもらうことなど夢のまた夢だったあの頃、 このラジカセは恵まれた家庭で楽しく鳴っていたのかな。 ・・・そんなことを考えながら、綿棒とウエスと洗浄剤を使い分けながらちまちまと内部清掃を続けます。 幸いこの油っぽいホコリは撫でるだけで簡単に取れ、油分のおかげか、 埃にまみれていたところは金属表面の酸化は軽微で、むしろ保護材として役に立っていた面もあります。

2020-10-07 テープカウンタドライブベルト交換






トップボードの電解キャパシタを新品にする

    トップボードにはトランジスタ2SC900が2個あります。 おそらくバクサンドール型のトーンコントロールアンプなのでしょう。 ボードが取り外されている状態なので、 とくに支障は感じていないのですが使われている電解キャパシタ計5個を全数新品交換することにしました。 精神衛生と、プラシーボ効果を狙った作業。

    33uFが2個使われているところは33uFの在庫がありません。 はてこれらは何の目的のものなのだろう。 深く考えずに47uFを取り付けました。 結果、特に何が変わったふうでもありません。 まあいいか。

2020-10-08 トップボード 電解キャパシタ5個新品交換






テープ再生で高音が出すぎるだなんて

    FMラジオが復活したしテープトランスポートのゴムベルトもすべて交換しましたから、 このラジカセが最新鋭だったころの使われ方・・・FMエアチェックを試してみます。 RECボタン押下に伴って動く長大なスライドスイッチには接触不良があって録音レベルが不安定だったので、 接点洗浄剤をスイッチに吹き込み、かちゃかちゃしばらくスライドを繰り返しました。 よし、接触不良は消えたぞ。

2020-10-08 メインボード PLAY-REC切り替えスライドスイッチ接点清掃

    録音したテープを聞いてみると、どうやらテープ走行の不安定さはどこかに残っているようで、 ときおり一瞬だけテープ回転が遅くなることがあります。 周期的に発生しているわけではないことを見ると・・・ううむ、どこが悪いのだろう。

    テストし始めたときに気づいた通り、 復活したFM/AMラジオとLINE INから入力した外部信号の再生に比べて、 テープ再生の音はやはり高音が出すぎています。 いままで使ってきた数々のカセットテープ機で、高音が出過ぎるモデルというのは記憶にありません。 すこし高音がキツい、くらいならばともかく、 TREBLEコントロールを最低に近いところまで絞ってどうにかバランスがとれる状況です。 DOLBY ONで録音してDOLBY OFFで再生したとしたとしても、ここまでにはならないでしょ。

    これはテープ再生のヘッドアンプあたりでカップリングキャパシタの容量抜けが起きて、 低域が相対的に弱くなっているためなのではないかと推測します。

    テープヘッドからのシールド線がメインボードに入っている付近の基板パターンの観察し、 テープ再生中に素子を指で触れて大きなバズ音が出ることを確認して、 その付近にあるいかにもカップリングあるいはエミッタバイパスとおぼしき電解キャパシタを4つ、新品交換しました。

    なかでもC219 10uFを交換したときの変化ははっきりしていて、 結果として低域から高域までバランスよく鳴るようになりました。 ドンシャリ耳の私なので例によってラウドネスON、BASSもTREBLEもブーストした状態がちょうどいい感じになりました。 TREBLEを上げ過ぎると高音のシャリシャリ音がきつくなりすぎるので、 テープヘッドは良好な高域特性を維持しているようですね。

    ちなみテープヘッドの段付き摩耗はさほどにはひどくなく、 前オーナーはカセットテープはヘビーには使わなかったのかもしれません。

2020-10-08 メインボード テープヘッド回り電解キャパシタ4個新品交換








ベルトがきつすぎた

    不定期に発生する一瞬のテープ走行の乱れは、 テープカウンタドライブベルトのテンションが高すぎたためでした。 フロントパネルを外した直後に新品交換したのですが、 この時使った折径66mmのものではきつすぎたようです。

    オリジナルのベルトは折径80mmでテンションはかなり緩くなっていたのですが、 これに戻してみるとまあなんとかカウンタは回っています。 それに、テンションが緩ければカウンタの桁上がりなどのときのトルク変動もうまく吸収してくれるかもしれません。

    テープ走行の不定期な乱れは皆無にはなっていませんが、 でも、まあこのへんで妥協しておこうかな。 ピアノ主体のアルバムでもリラックスして聴ける程度には安定しました。

2020-10-09 テープカウンタベルトを80mmオリジナル品に戻す

テープ速度がときおり乱れる

    調子がよくなってきたのでお気に入りのアルバムを録音してカセットサウンドで楽しもうと思ったのですが・・・ まだなかなかうまくいきません。 録音時に回路を切り替えるスライドスイッチはまだ接触不良が残っており、 途中から音が小さくなってしまったりとか。 再度接点洗浄スプレーをスイッチ内部に注入してカチャカチャやりましたが、 どうも完全に復活とは行っていないようです。

2020-10-10 PLAY-RECスライドスイッチ接触不良再発 洗浄剤注入

    テープ速度は、連続的に発生するワウフラッタはピアノ曲でもカセットとしてはほとんど気にならなくなりましたが、 不定期にテープ速度が乱れることがあります。 はてこれはなぜだろう。 テープそのものか、テイクアップリール駆動アイドラがときおりスリップするためなのか、 揺動運動をしているオートシャットオフカム機構が渋くなることがあるのか、 サプライリールからベルトで駆動されるテープカウンタの桁上がりの渋りだったりするのかな。 アイドラのゴム表面をクリーニングリキッドで清掃してみたり、 揺動カム機構にシリコン潤滑剤をスプレーしてみたり、 テープカウンタの桁上がり機構を再度清掃してみたりしても、 不定周期で突発的に起きる瞬間的なテープ速度の乱れは収まりません。 もはやこれはメカ由来とは思えなくなってきました。 とりあえず可能性を減らすために、テープカウンタドライブベルトを取り外しました。

    テープカウンタは、テープスピード調整トリマがついた小さなプリント基板の上についています。 まてよ、テープスピード調整トリマの接触不良という可能性はあるな。

    その基板の上にはほかに電解キャパシタとトランジスタがいくつか載っています。 そうか、これがスタジオ1980自慢の高級メカ、DCサーボモータ制御ユニットなんだ。 とすれば、サーボ回路に使われている電解キャパシタやトランジスタの故障で、 不定期かつ瞬間的なスピードの狂いが発生してもおかしくはない。 トランジスタは3つ、その一つはTO-1キャンパッケージのゲルマニウムトランジスタでした。 あれま懐かしい。


サーボユニットのキャパシタ

    テープカウンタユニットと一緒になっているDCサーボ制御ボード - 以降サーボユニットと書きます - を取り外し、 まずはそこについている電解キャパシタを3つ、無条件ですべて新品に交換しました。 しかしどうも症状は変わっていないようです。 するとトランジスタかもしれないね。

    なんにしてもこれは動作原理を分かっておいてからのほうがよさそうだ。 当時の中高生にとっての夢の最高級マシンはDCサーボモータ搭載、といっても、 ラジカセですから簡易な回路でしょう。 テストしながら、回路図を起こしてみよう。

2020-10-11 サーボユニット 電解キャパシタ交換 症状変わらず







DCサーボの世界に足を踏み入れる

モータ駆動波形を観察する

    4連休が貰えたのに中土曜日は一日雨の予報で、前泊して金曜一日の南会津ツアーから帰ってきました。 予報通りの雨の土曜日はスタジオ1980の修理で楽しみます。 まずは本当にサーボが悪いのかどうか。

    サーボユニットに アンティーク真空管オシロスコープ アナログテスタ をつなぎ、 モータ駆動電圧の様子を見てみます。 これまた年代物のMiniDVデジタルビデオカメラをセットし、 音の乱れの一瞬を捉えられるようにしてみました。 酔狂なレトロ機材の組み合わせは、みごとにその一瞬を捉えてくれました。 ムービー参照。

    カセットを入れずテープの駆動ロスが発生していないとき、 キャプスタンに指をあてて回転抵抗を増すと、モータ駆動電圧は上がります。 サーボユニットが回転数の低下を防ごうとしているのでしょう。

    いっぽう、いま確認されているテープ速度の乱れは、かならず速度が遅くなる方向です (録音時に発生した場合は、再生時に一瞬音が高くなって聞こえます)。 モータ回転が遅くなっているのにサーボが効かずモータ駆動電圧が下っている? それともサーボエラーが起きてモータ駆動電圧が下がり、だから回転数が落ちている?

2020-10-17 15:00 テープ速度変動発生時にモータ駆動電圧が低下していることを確認







サーボユニットの電源電圧を見てみる

    そもそもサーボユニットへの電源電圧は安定しているのかなあ? 本体AC100V電源回路が不調で電源電圧が瞬間的に落ちているかもしれないよ? なので次はサーボユニットの電源電圧をモニタしてみます。

    サーボユニットへは電源電圧DC約11Vが来ていて、三角波成分が残っています。 これは電源回路の平滑が不十分できれいな直流にはなっていないということです。 これが悪さしているのかなあ?

    ビデオカメラは、テープ速度の乱れと同時に電源電圧が瞬間的にドロップしていることを捉えました。 おお、電源回路側の問題なのか。 電源平滑キャパシタはまだ交換していません。 スピーカからの音にハムが混じるほどの劣化は示していませんが、 不安定なリークがあるとすれば症状の説明ができます。

2020-10-17 18:00 異常発生時にサーボユニット電源電圧が低下していることを確認







外部DC12Vで動作させてみる

    本機は側面にDC電源ジャックを持っています。 供給電圧はDC12V、プラグはアウターポジティブです。 Kenwood PWR18-2TP でDC12.0Vを出してこれで動作させ、 使用時間の少ない新品に近い46分テープを用意して、一本静かなピアノソロアルバムを録音。

    再生してみると、不定期な速度変化は出ていません。 問題はやはり本体内AC100V電源回路にあるんだな。 と思ったのもつかの間、一瞬の速度の乱れが。 ええ?

    さてそうなると、いちばん可能性が高いのはテープモータONスイッチの接触不良かな? しかしテープモータスイッチ接点を研磨してもモータ駆動電圧の乱れは消えません。

    外部DC12V動作でもモータ駆動基板の電源電圧が変動することがあるというのは、 サーボユニットが内部で瞬間的にショート状故障を起こしていて電源電圧を引き下げてしまっているのかもしれませんし、 あるいは本体側面のDC12V電源入力ジャックからサーボユニットまでの間に何か、 たとえば電源平滑用の電解キャパシタはAC100V動作時と同様に使われているのかもしれません。

    ので、切り分けのために、外部電源装置のDC12Vをサーボユニット電源に直接入れてみました。 テープを回すと、モータ駆動電圧にはサーボの波形が重畳していて多少のふらつきは見られるものの、 散発的なスパイクノイズ状の急激な変化や大きな揺らぎは見えていません。 いままでになく安定しています。

    なお参考に、外部DC12V動作時の全電流は、LINE-INをテープに録音時に200mA、 テープ再生時に130mAです。

2020-10-17 DC12V外部電源でのテープ動作をテスト







ネガティブサージ吸収ダイオード

    しかし、どうやらこれは連続してテストを続けているうちに症状が影をひそめてしまったからのようです。 ターボ・ファルコン號のお別れツーリングに内山峠のツリーハウスにランチに行き、 3時間後に帰ってきてから試すと、サーボユニットのモータ駆動電圧にはときおりスパイク状の乱れが見られますし、 電圧測定用につないだアナログテスタの指示も一瞬落ち込むことがあります。 つまりラジカセ本体電源回路の平滑キャパシタの不安定なリーク故障、 という可能性はなくなりました (すくなくともそれだけではありません)。 やはりサーボの中に踏み込んでいかなくてはなりません。

    サーボユニットに使われている電解キャパシタはすでに3つとも新品交換してありますので、 トランジスタ3つ、およびダイオード2個のどれか、あるいは複数の動作が不安定になっていると思われます。

    描き起こした回路図を眺めて、 不安定な素子故障が起きていてモータ駆動電圧が一瞬落ち込む、同時にサーボユニット電源電圧もドロップさせるとしたら、 モータに並列に入っているサージ吸収ダイオードD401のショート故障が真っ先に思いつきます。 なのでこれを在庫品の2A02 整流用ダイオードに交換しました。 が、症状は変わりません。

2020-10-18 ネガティブサージ吸収ダイオード交換 効果なし







フィードバック入力トランジスタ

    ゲルマニウムトランジスタ2SB475のベース電圧はダイオードD402の順方向電圧降下を使って生成されているものと見えます。 ここの電圧を測ってみるとDC11.5Vで安定しています。 ベース-エミッタ間電圧は0.5Vということになりますが、 エミッタには220Ωの電流帰還バイアス抵抗が入っていて、 エミッタ電流が増えるとベース-エミッタ間電圧は下がってネガティブ・フィードバックがかります。 このためこのトランジスタのコレクタ電流はほぼ一定になります。 使われているのがゲルマニウムトランジスタなので熱暴走の危険がありますが、 エミッタ抵抗に並列に入れられたサーミスタによって、 温度変化に対してもフィードバックが安定となるようにされています。

    ここの電圧が安定しているということはダイオードD402は問題なし、 ゲルマニウムダイオードもエミッタ-ベース間の接合は大丈夫なようです。

    DCモータが発生した回転数に応じた正弦波信号はシリコンNPNトランジスタ 2SC1364 が受けます。 2SC1364 のコレクタ電圧、つまりモータ制御電圧を観察してみると、DC0.85Vでノコギリ波が重畳しており、 テープ速度変動を引き起こす大きな電圧ジャンプがときおり見られます。 やはりテープ速度変動の原因はサーボ回路の中にあったんだ。

    これは上流のゲルマニウムトランジスタ2SB475が故障しかかっているのかもしれないし、 下流の2SC1364の故障かもしれません。 あるいは後段のモータ駆動トランジスタの内部故障で無理やり引き下げられている可能性もあるかもしれません。

    ゲルマニウムトランジスタの替えの在庫はありませんのでこれが壊れていないことを祈って、 2SC1364を交換します。 ずばりの在庫はなかったので、懐かしのみんな大好き2SC954の新品に換えました。

    交換後、2SC954のコレクタ電圧は交換前に見られた突発的な電圧変動などの不安定さはなくなりました。 2SC1364トランジスタのデバイス故障がテープ速度変動の原因だったか。

    ところでこのトランジスタ、最後の桁のマーキングが消えちゃってて、最初は2SC136かと思いました。 でも2SC136は古いキャンパッケージ品のはずだし… スマートフォンのカメラで撮影して拡大すると、うっすらと4桁目に「4」の刻印がありますね。 まったく紛らわしい。

2020-10-18 サーボユニット フィードバック入力トランジスタ交換 モータ制御電圧のノイズ/ジャンプ解消









モータ駆動トランジスタ

    フィードバック入力トランジスタ交換後にオシロスコープをモータ駆動電圧につなぎ変えてみると、 あれ、ずいぶん減ったとはいえ、突発的な電圧変動はときおり見られますし、 実際に一瞬のテープ速度ムラが聞き取れました。 これは、フィードバック入力トランジスタが不良になっていただけではなくて、 モータ駆動パワートランジスタも故障しかかっているものと見えます。

    モータ駆動用パワートランジスタ Q401 には 2SC1429が使われています。 当時のソニー製のラジオでこのトランジスタが故障しているケースもいくつか見られますから、換えてしまいましょう。 代替品はラボの在庫から中古の2SC3852を選びました。 ピン配列が異なるので取り付けはみっともなく、 2SC1429を取り外す際にパターンを痛めてしまったのでなおさらみっともない修理になってしまいました。 交換後はモータ駆動波形がやや違ってテープ速度が変わってしまったので、トリマで再調整。

    モータ駆動波形にもサーボユニット電源電圧にも突発的なノイズは見られず、 テープ速度は安定しています。 サーボユニット電源を本体から取るように戻してOK、 本体電源を外部DC12VではなくてAC100VにしてもOK。 ピアノアルバムをテープ一本に録音し、再生して、気になるほどのテープ速度変動は起きませんでした。 直ったな!

    結論。 テープの突発的な速度変動は、DCサーボ制御基板上のトランジスタ2個の素子不良が原因でした。

2020-10-18 サーボユニット モータ駆動トランジスタ交換 不安定挙動消失








メインボードのキャパシタ交換

    テープトランスポートの動作が正常になったと思えるので、 テストとしてテープを聞きつつ、 メインボードの電解キャパシタを交換します。 全部交換するほどの元気はありませんけどね。

    まずは一番大きな、AC100V電源の平滑キャパシタ。 2200uFが使われていますが、手元に2200uFはなく、 4700uFの低ESR品が大量にありますのでこれを使います。 新品とはいえたぶん製造は2008頃のものかもしれませんが、 容量は倍以上、耐圧も高いのにサイズは半分以下。 30年の間のデバイスの進化を見るようでもあります。 交換後の動作にはめだった変化は感じられません。 AC100V動作時の内部電源ラインのリップルは半分に下がりました。

    つぎに、パワーアンプのスピーカ出力カップリング。 1000uFです。 手持ちの1000uF品はちょっと特別な長いサイズのもので取り付けにくかったので、 470uF品を2個パラレルでつなぎました。 交換後、スピーカの低音が豊かになったような気がします。 気がするだけかもしれません。

    他に、モータ駆動電源ラインのノイズ防止インダクタ直後に入ったノイズ吸収用100uFや、 パワーアンプ初段アンプ周辺・パワーアンプドライバトランジスタ周囲のキャパシタを交換しました。 一つ交換してはテスト、を繰り返します。





    どのキャパシタもひとつひとつは交換したことによる顕著な違いは感じられなかったのですが、 作業後はスピーカ出力の低音が豊かになりパワフルになりました。 修理作業開始時はスピーカ出力の不足が明らかで、 とくに低域がたいしてボリュームを上げていないうちから頭打ちになってしまっていたのですが、 いまでは十分なパワーで豊かな音で鳴ってくれるようになりました。

    バリアブルモニタの音量不安定は残っているものの、 いったんここで一区切りつけることにして、 フロントパネルを中性洗剤で洗ってケースを組み立てました。 交換したバンドセレクタスイッチはトップパネルとの干渉ギリギリ、 どうにかうまく組付きました。

2020-10-19 メインボード電解キャパシタ交換 ケース清掃組み上げ






バリアブルモニタ

    録音時にバリアブルモニタの音量が落ちることがあります。 REC-PLAY切り替えスライドスイッチの接触不良だろうと思われ、 接点洗浄スプレーをスライドスイッチに吹いてかちゃかちゃやるとしばらくは直るのですが、 そのうちに再発します。

    これはひょっとしたら録音時にのみ使われるバリアブルモニタ回路とかの素子不良なのかも。 そうであってくれればいいのだけれどと思いながら、 手っ取り早いところでメインボードの残りの電解キャパシタを全数交換してしまうことにしました。 在庫部品の関係から3.3uF/4.7uF/33uFの交換が済んでいませんが、 10数個のキャパシタを交換しました。

    キャパシタ交換作業後テープを1本録音して聴いてみると、音量レベルが上がっていて、音質もよくなりました。 いままではテープ再生まわりしか着手しておらず録音アンプまわりは手付かずでしたから、 テープへの録音音質劣化が回復した、ということでしょう。 さらに、オーディオレベルインジケータの指示も安定したと見えます。 録音時にピークで0VUを示すようにマニュアル録音したテープは、再生時にピーク0VUを示します。 いい感じ。

    しかし残念、録音中のバリアブルモニタ音量は以前と同じような感じで接触不良様の音量低下が発生していました。 やはりスイッチなのかなあ。 いやでもまだ交換していないキャパシタはあるし、 トランジスタの素子不良かもしれないよ。

    録音中にバリアブルモニタ音量低下が発生した部分、 そのテープを再生してみると、音量は安定しています。 音量低下が発生しているのはバリアブルモニタ側で、 録音ヘッドへの出力レベルは影響を受けていません。 であれば、録音中の音量変化は気にしなくてもよい、ということです。 ちょっと救われるなこれは。

    それより軽くショックなのは、テープ速度の突発的な変動がまだ残っている、ということ。 頻度は間違いなくずっと下がっているのですが、C-46テープ再生中に2回発生する、という感じ。 録音時に発生したものもあります (同じところで必ず変動する) ので、 1時間に1回発生する、といったところ。 さあこれは、まだ交換していないDCサーボユニットのゲルマニウムトランジスタが原因なのでしょうか。

2020-10-23 メインボード電解キャパシタ交換の続き





ALCスイッチだった

    録音時のスピーカモニタ音量が下がることがある症状、 メインボードのレイアウトをみて回路を追いかけてみます。

    録音スライドスイッチを取り外して分解し接点を研磨するのが正統なフルレストア作業でしょうが、 ピン数の多い録音スライドスイッチはうまく取り外せるとは限りません。 無理やり外そうとして修正不可能なダメージを与えてしまうリスクがかなりあります。 数ある接点の中で怪しいものが絞り込めて、かつパターンがうまい具合に這い回されているならば、 その接点周辺だけ部品を取り外してスイッチ接点を独立させ、 2A程度の電流を流しながらかちゃかちゃやれば酸化被膜を焼き切れるかもしれません。 乱暴な方法ではありますが。 あるいは超小型リレーやトランジスタを追加して不安定なスイッチを置き換える作戦もありそうです。

    信号レベルや電圧を見ながらパターンを追いかけて、メインアンプの仕組み、交流バイアスとISSの仕組み、 チューナ電源回路の仕組み、VUメータ回路の仕組み、 ALCの仕組みなどがすこしずつ見えてきました。

    ALC回路はRECスライドスイッチの上から2番目のセクションにつながっています。 ALC電圧はトランジスタQ206のベースに入っていて、 再生時はRECスライドスイッチによって常時グラウンドに落とされていますが、 録音時は本体上面のREC AUTO-MANUALスイッチにつながります。 録音時にAUTO-MANUALスイッチがMANUALポジションのときはスイッチが導通し、 ALC電圧はグラウンドに落とされます。 録音時でこのスイッチがAUTOのときはスイッチはオープンになり、 入力音声のレベルが高まるとALC電圧が高まります。 ALC電圧が高まるとトランジスタQ206のコレクタ-エミッタ間の導通が始まり、 録音信号をシャントして、レベルが高まらないようにしているのでしょう。 で、ここを調べていたら……あれ? AUTO-MANUALスイッチがMANUALポジションにあるのに、スイッチの接触が悪くてALC電圧がグラウンドに落ちないことがある! これが発生すれば、録音時の音量が下がるよね。

    AUTO-MANUALスイッチ内部に接点洗浄スプレーを噴いてかちゃかちゃ。 スイッチの動作は安定しました。

    これが原因だったのかな? しかしそうであれば、バリアブルモニタによるスピーカモニタ音量だけでなくて、 実際にテープに録音される音量も変化しそうなものだけれどな。

    いぶかしく思いながらも、AUTO-MANUALスイッチの接触不良を直してからは録音時のモニタ音量は安定していますし、 テープに録音される音量も安定しています。 ここが原因だったとしてよさそうです。

2020-10-25 REC AUTO-MANUALスイッチ接触不良修正 録音時モニタ音量安定






1975年の夢がここに

    自分のラジカセを持てなかった小学4年〜小学6年。 中学に入学して英語学習用に買ってもらったナショナルRQ-542は音楽鑑賞には役不足な低価格機。 中学3年で アイワTPR-840 を買うまで、音楽はモノラルカセットでした。 その間ずっと意識の表層下で憧れと妬みが入り混じった複雑な心象とともにあったソニー スタジオ1980が、 ようやく自分のものとなりました。

    豊かな低音、伸びのある高音、迫力のパワー、安定なテープ走行、レベルメータつきマニュアルミキシングコントロール。 これが欲しかったんだよね。 それで、この最高機種でレベルメータをにらみながらマニュアルで録音レベルを調整してテープを録音し、 そして音楽を聴きながら、 たしかにいい音なんだけれどテープヒス音がすごく耳につくなあ、なんだかリラックスできないなあ、っていうんだよね。 1975年の夢を、思う存分にどうぞ。






> 次の修理・・・岩通SS-5702 シンクロスコープ


サービスサマリー

FMラジオが聞こえない

    バンドセレクタスイッチ不良。 接点不良によりチューナーボード受信回路に電源が供給されておらず、 またAM/FMのどちらの音声信号も選択されていなかった。 スイッチをサトーパーツ在庫品に交換して正常動作。


AMラジオで強力な局の場合に低音がこもり気味

    チューナーボードAM検波回路周辺のキャパシタ交換で回復。


テープ走行不安定

    ゴムベルト交換、トランスポート各部給脂。 DCサーボユニットのトランジスタの素子不良、2本交換。


テープ再生音質不良

    低音弱く高音出過ぎ。 テープヘッドアンプ/イコライザ部のキャパシタ交換で回復。


メインアンプ音質不良

    パワー不足、低音早期飽和。 パワーアンプ部キャパシタ交換で回復。


テープ録音音質不良

    録音レベル低く周波数特性リニアリティ不足。 録音アンプ周辺のキャパシタ交換で回復。


録音時にバリアブルモニタの音量が変化する

    ALCスイッチ (AUTO-MANUALスイッチ) の接触不良。





残課題

FM音声レベルがAM音声レベル/LINE INレベルに比べて低い

    ラジオのAMとFMとで音声レベルに結構な差があります。 バンド切り替えの都度ボリュームをちょっといじってやればいいだけですが、 気になる部分ではあります。 当初からこんなものだったのかな? 対策したければ、 チューナボードのFM音声出力からバンドセレクタスイッチまでの間に小さなブーストアンプを増設する作戦がありそうですね。


テープ速度 散発的・瞬間的に変動する

    DCサーボユニットのゲルマニウムトランジスタまたは基準電圧ダイオードの素子不良の可能性。






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